「関節リウマチや膠原病で仕事や家事が思うようにできなくなった」「治療費の負担は難病医療費助成で減らせたけれど、収入が減った分の生活費が心配」——そんな悩みをお持ちの患者さんから、診察室で「障害年金って私ももらえますか?」と聞かれることが増えてきました。障害年金は、関節リウマチや膠原病の患者さんでも、日常生活や仕事に一定以上の支障が出ていれば対象になり得る公的な所得保障制度です。この記事では、関節リウマチ・膠原病で障害年金を受給できる条件、等級の目安、申請の流れと診断書のポイントを、リウマチ内科専攻医の立場からわかりやすく解説します。
患者さん


障害年金とはどんな制度?
障害年金は、病気やけがによって生活や仕事に支障が出たときに、現役世代でも受け取れる公的年金です。「年金」という名前から高齢者向けの制度と思われがちですが、20歳以上であれば請求できます。ただし、後述する「事後重症請求」には65歳の誕生日の前々日までに請求する必要があるという期限があるため、症状が進行してきたと感じたら年齢を意識しつつ早めに検討することが大切です。老後の年金(老齢年金)とは別の制度で、加入している年金の種類によって次の2つに分かれます。
障害基礎年金と障害厚生年金
初診日(症状で初めて医療機関を受診した日)に、自営業や専業主婦(夫)などで国民年金にのみ加入していた場合は「障害基礎年金」、会社員や公務員として厚生年金に加入していた場合は「障害厚生年金」が対象になります。障害厚生年金は障害基礎年金に上乗せして支給されるため、初診日に厚生年金に加入していた方の方が選択肢が広くなります(後述する3級や障害手当金は厚生年金加入者のみが対象です)。
障害等級と金額の目安(2026年度)
障害の程度は重い順に1級・2級・3級(3級は障害厚生年金のみ)に分かれます。2026年度(令和8年度)の年金額の目安は以下の通りです。
- 障害基礎年金1級:年額 約105.9万円(月額換算 約8.8万円)
- 障害基礎年金2級:年額 約84.7万円(月額換算 約7.1万円)
- 障害厚生年金1級:報酬比例部分の年金額×1.25+配偶者加給年金額
- 障害厚生年金2級:報酬比例部分の年金額+配偶者加給年金額
- 障害厚生年金3級:報酬比例部分の年金額(最低保障額 約63.6万円/年)
厚生年金は加入期間中の給与水準によって報酬比例部分の金額が変わるため、実際の受給額は日本年金機構やねんきん定期便、年金事務所での試算で確認するのが確実です。また障害基礎年金には18歳未満(障害のある子は20歳未満)の子がいる場合の加算があります。
関節リウマチ・膠原病はどう認定される?
「肢体の障害」としての認定が基本
関節リウマチは、手指・手関節・肘・肩・股関節・膝・足関節など複数の関節に炎症や変形が及ぶ疾患のため、多くの場合「上肢の障害」「下肢の障害」ではなく、両方をまとめて評価する「肢体の機能の障害」の認定基準で審査されます。ここで重視されるのは、レントゲンや血液検査の数値そのものよりも、実際の日常生活動作(ADL)にどれだけ支障が出ているかという点です。
具体的には、以下のような動作がどの程度自分でできるか・介助が必要かが診断書に記載され、審査の重要な判断材料になります。
- 衣服の着脱、洗面、入浴
- 食事の準備・摂取(箸やスプーンの使用)
- 立ち上がり、歩行、階段の昇り降り
- 物を持つ、字を書く、瓶のふたを開けるなどの巧緻動作
膠原病(SLE、全身性強皮症、皮膚筋炎など)の場合は、関節症状に加えて内臓病変(腎障害、間質性肺疾患、心病変など)を伴うことも多く、その場合は「肢体の障害」とあわせて、腎疾患や呼吸器疾患などそれぞれの障害の認定基準で総合的に評価されることがあります。
人工関節を入れた場合は原則3級
股関節や膝関節が変形性関節症を合併し、人工関節(人工股関節・人工膝関節)や人工骨頭に置き換える手術を受けた場合は、原則として障害等級3級に認定されます。ここで注意したいのは、3級は障害厚生年金にのみ設定された等級だという点です。初診日に国民年金にのみ加入していた方(自営業や専業主婦(夫)など)は、人工関節の症状だけでは障害基礎年金の対象(1級・2級)に該当せず、受給できないケースがあります。ただし、人工関節に加えて他の関節にも高度な機能障害がある場合は、肢体全体の評価で2級以上に認定される可能性もあるため、諦めずに専門家に相談することをおすすめします。
申請の流れと押さえておきたいポイント
STEP1:初診日を確定する
障害年金の請求で最初につまずきやすいのが「初診日の特定」です。初診日とは、関節の痛みや腫れなど、後に関節リウマチ・膠原病と診断される症状で初めて医療機関を受診した日を指します。ここで加入していた年金制度(国民年金か厚生年金か)によって、請求できる年金の種類が決まります。初診日を確認できるカルテが医療機関に残っていない場合(5年以上前のカルテは廃棄されていることもあります)、受診状況等証明書が取得できないことがあるため、できるだけ早めに当時の医療機関に確認しておくと安心です。
STEP2:保険料納付要件を確認する
初診日の前日時点で、一定期間以上保険料を納めている(または免除を受けている)ことが必要です。原則として初診日の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと、または初診日の前々月までの被保険者期間のうち3分の2以上の期間で保険料を納付・免除していることが要件になります。この要件は年金事務所やねんきんネットで確認できます。
STEP3:障害認定日を確認する(原則請求・事後重症請求・遡及請求)
原則として、初診日から1年6か月経過した日(この日を「障害認定日」といいます)の状態で等級が審査されます(原則請求)。ただし人工関節を挿入した場合は、その手術日が障害認定日となる特例があるため、初診日から1年6か月以内に手術を受けていれば、その時点で請求が可能です。
障害認定日の時点では等級に該当しなかったが、その後症状が悪化して該当するようになった場合は「事後重症請求」として、現在の状態で請求することができます。また、障害認定日の時点ですでに等級に該当していたにもかかわらず請求していなかった場合は、さかのぼって最大5年分を受け取れる「遡及請求」という方法もあります(この場合は障害認定日当時の診断書と現在の診断書の2枚が必要になることが一般的です)。なお、事後重症請求には「65歳の誕生日の前々日まで」という請求期限があり、これを過ぎると症状がどれだけ悪化していても請求できなくなるため注意が必要です。
STEP4:診断書はADLの記載がカギ
障害年金の診断書(肢体の障害用)には、関節可動域や筋力といった医学的所見に加えて、日常生活動作(ADL)の状況を具体的に記載する欄があります。診察室では「痛みはありますか」「腫れは落ち着いていますか」といった質問が中心になりがちですが、障害年金の審査では「実際に何がどこまでできないか」の情報が非常に重要です。受診の際は、次のような具体的なエピソードを主治医に伝えるようにしましょう。
- ボタンをかける、瓶のふたを開けるのに何分かかるか、誰かに頼んでいるか
- 階段の昇り降りに手すりが必要か、休み休みでないと昇れないか
- 調理や洗濯など家事のうち、できなくなった作業は何か
- 職場でどのような業務が困難になり、どんな配慮を受けているか
「診察のときには元気そうに見えてしまい、実際の大変さが伝わりにくい」というのはよくあることです。日々の困りごとをメモしておき、診察時に主治医へ渡すと、より実態に即した診断書を作成してもらいやすくなります。






認定後の更新と、不支給になった場合
障害年金には「更新」がある
障害年金は一度認定されたら一生涯もらえ続けるとは限りません。多くの場合「有期認定」となり、1〜5年ごとに医師の診断書を提出して、症状の状態を再確認する「更新(障害状態確認届の提出)」が必要です。関節リウマチは治療によって症状が改善する(寛解に近づく)こともある疾患のため、更新のタイミングで等級が下がったり、支給が停止されたりする可能性もあります。逆に、更新時に症状が悪化していれば、等級が上がることもあります。更新時期が近づいたら、日本年金機構から案内が届くので、期限内に主治医へ診断書作成を依頼し、忘れずに提出することが大切です。長期間にわたって症状が固定していると判断された場合は、更新不要の「永久認定」となることもあります。
不支給・却下になったらどうする?
申請しても、必ずしも希望する等級で認定されるとは限らず、不支給となることもあります。その場合は、決定に不服があるときの手続きとして「審査請求」(決定を知った日の翌日から3か月以内)、さらに「再審査請求」という不服申立ての制度があります。また、時間が経ってから症状が悪化した場合は、あらためて事後重症請求として再度申請し直すことも可能です。診断書の内容が実際の生活状況を十分に反映できていなかったことが不支給の原因になっているケースも少なくないため、再申請の際は、前述のようにADLの困りごとをより具体的に主治医へ伝え直すことがポイントになります。
等級ごとのイメージをつかむ(あくまで目安)
実際の認定は個々の状態を総合的に審査するため一概には言えませんが、大まかなイメージをつかむ参考として、以下のような目安が挙げられます。
- 1級のイメージ:複数の関節の高度な機能障害により、食事・排せつ・入浴・着替えなど日常生活動作の大部分に介助が必要で、ほぼ終日を自宅内で過ごさざるを得ない状態。
- 2級のイメージ:日常生活は何とか自分で行えるものの、家事や外出、細かい動作の多くに強い支障があり、就労も大きく制限される状態。
- 3級のイメージ(障害厚生年金のみ):人工関節への置換や一部関節の高度な機能障害はあるものの、日常生活は概ね自立しており、労働に一定の制限がある状態。
同じ「関節リウマチ」という診断名でも、罹病期間や関節破壊の進行度、合併症の有無によって該当する等級は大きく異なります。「自分はどの程度なのか分からない」という場合は、まず年金事務所の窓口で概要を相談してみることをおすすめします。
他の制度との違い・組み合わせ方
関節リウマチ・膠原病の患者さんが利用できる経済的支援は障害年金だけではありません。それぞれ目的や条件が異なるため、混同しないようにしましょう。
- 傷病手当金:会社員が健康保険に加入している場合に、病気で働けない期間の給与の一部を補う制度。最長1年6か月まで。障害年金とは別に申請でき、条件を満たせば同時期に受給できる場合もあります(ただし調整が入ることがあります)。
- 身体障害者手帳:関節の機能障害に対して交付される手帳で、税制優遇や福祉サービスの利用に使われます。障害年金とは審査基準・窓口が異なる別の制度で、手帳の等級と年金の等級は必ずしも一致しません。
- 指定難病の医療費助成:SLEや全身性強皮症など指定難病と診断された場合の医療費自己負担を軽減する制度。障害年金のように生活費を保障するものではなく、あくまで医療費が対象です。
これらの制度は互いに補い合う関係にあるため、「うちは何が使えるのか」を一度整理してみると、経済的な不安を減らす手がかりになります。市区町村の障害福祉窓口や医療機関の医療ソーシャルワーカー(MSW)に相談すると、利用できる制度を横断的に整理してもらえることもあります。
よくある疑問
難病医療費助成を受けていれば自動的にもらえる?
いいえ、難病医療費助成(指定難病の医療費助成制度)と障害年金は別の制度です。難病医療費助成は医療費の自己負担を軽減する制度、障害年金は生活・仕事への支障の程度に応じた所得保障の制度で、審査基準も申請窓口も異なります。両方の制度を別々に申請する必要がある点に注意してください。
仕事を続けながらでも申請できる?
可能です。「働いているから障害年金はもらえない」というのは誤解で、時短勤務や配慮を受けながら就労している状態でも、症状の程度によっては認定されることがあります。ただし、就労状況(どのような配慮を受けているか、フルタイムか時短か等)も審査の参考情報として考慮されるため、診断書やご自身が記載する「病歴・就労状況等申立書」に、就労上の困難や周囲の配慮の内容も具体的に記載することが大切です。
どこに相談すればいい?
まずはお住まいの年金事務所や街角の年金相談センターで、初診日や保険料納付要件について相談できます。診断書の依頼は主治医に行いますが、申請書類の作成そのものが不安な場合は、障害年金の請求を専門にしている社会保険労務士に相談する方法もあります。
まとめ
関節リウマチや膠原病は、症状の重さや関節破壊の進行度によって、障害年金の対象になり得る病気です。特に人工関節を挿入した方や、複数の関節に及ぶ機能障害で日常生活に大きな支障が出ている方は、一度制度の対象になるか確認してみる価値があります。ポイントは、病名そのものよりも「初診日の年金加入状況」「保険料納付要件」「日常生活・就労への具体的な支障の程度」の3つです。金額や等級の認定は個々の状態によって大きく異なりますので、この記事の内容を参考にしつつ、実際の申請にあたっては年金事務所や主治医、必要に応じて社会保険労務士とも相談しながら進めてください。そして何より、症状や生活への支障について不安なことがあれば、まずは主治医・かかりつけ医に相談することを大切にしてください。

