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ステロイドと大腿骨頭壊死症|股関節の痛みに要注意な理由をリウマチ専攻医が解説

「ステロイドを飲み始めてから、なんとなく股関節が痛い」「歩き始めに脚の付け根が引っかかる感じがする」——そんな症状を、単なる筋肉疲労や運動不足だと思って様子を見ていませんか。膠原病やリウマチの治療でステロイド(プレドニゾロンなど)を使っている方の股関節痛は、まれに「ステロイド性大腿骨頭壊死症」という病気が隠れていることがあります。今回は、リウマチ内科専攻医の立場から、ステロイド性大腿骨頭壊死症の原因・症状・検査・治療について、できるだけわかりやすく解説します。

患者さん
先生、最近歩き始めに股関節がズキッとすることがあるんです。ステロイドを長く飲んでいるので、なんだか不安で……
子育て内科医
それは念のため確認しておきたい症状ですね。ステロイドを使っている方の股関節痛は、大腿骨頭壊死症のサインのこともあるので、詳しくお話ししますね。
目次

大腿骨頭壊死症とは?

大腿骨頭壊死症は、股関節を構成する大腿骨の先端部分(大腿骨頭)への血流が途絶え、骨の組織が壊死(血が通わなくなって骨細胞が死んでしまう状態)してしまう病気です。壊死そのものが起きた直後は、実は痛みなどの自覚症状がないことがほとんどです。問題が表面化するのは、壊死した部分が体重を支えきれなくなって「圧潰(あっかい)」——つぶれる状態——を起こしたときで、ここで初めて股関節や太もも、膝、お尻あたりの痛みとして自覚されるようになります。

原因がはっきりしないものは「特発性大腿骨頭壊死症」と呼ばれ、厚生労働省の指定難病(指定難病71)に定められています。特発性のものの中でも、原因として関係が深いとされているのが「ステロイドの全身投与」と「過度の飲酒」です。膠原病・関節リウマチ・血管炎などでステロイドを使う患者さんにとって、決して他人事ではない合併症のひとつです。

どのくらいの患者さんがステロイドと関係しているの?

特発性大腿骨頭壊死症の患者さんのうち、およそ半数(報告によりますが半数程度)に全身性ステロイド投与の既往があるとされています。膠原病内科の臨床では、SLE(全身性エリテマトーデス)や血管炎などで比較的大量のステロイドを使う治療機会が多いため、ステロイド性の大腿骨頭壊死症は決して稀な合併症ではありません。全国で年間に新たに診断される患者さんはおよそ2,000〜3,000人と報告されており、働き盛りの世代を含めて幅広い年齢層に起こり得る病気です。

若い女性のSLE患者さんにも起こりうる合併症

大腿骨頭壊死症は全体としても30〜50歳代に好発する病気ですが、ステロイドが関係するタイプに限っては、さらに若い世代でも発症することが少なくありません。SLE(全身性エリテマトーデス)やループス腎炎、血管炎などの寛解導入治療では、比較的若い女性であってもステロイドパルス療法(ステロイドを短期間大量に点滴する治療)や、経口プレドニゾロンの高用量投与が行われることがあります。こうした治療歴のある方は、年齢や性別にかかわらず大腿骨頭壊死症のリスクを頭の片隅に置いておく必要があります。「まだ若いから大丈夫」というわけではない点は、ぜひ覚えておいてください。

ステロイドがなぜ大腿骨頭壊死のリスクになるのか

ステロイドがなぜ骨の血流障害を起こすのか、その仕組みはまだ完全には解明されていませんが、脂質代謝の変化によって骨の中の血管が脂肪塞栓を起こしたり、血管そのものが傷んで血流が悪くなったりすることが関係していると考えられています。

リスクは「量」と「期間」に関係する

国際的な診断基準では、ステロイドが原因と考えられる大腿骨頭壊死症は「ステロイド投与開始から3か月以内にプレドニゾロン換算で累積2gを超える投与歴があり、かつステロイド投与開始から2年以内に発症したもの」と定義されています。プレドニゾロン換算で2gというと、たとえば1日20mgを100日間使うと到達する量にあたり、膠原病の寛解導入期など比較的高用量のステロイドを使う治療では、決して届かない数字ではありません。

また、1日あたりの平均投与量が多いほどリスクが上がることも報告されており、ステロイドを使っていない人と比べると、大腿骨頭壊死症を発症するリスクが大きく上昇するというデータもあります。だからといって、こうしたリスクを心配して自己判断でステロイドを減らしたり中止したりするのは絶対にやめてください。急なステロイドの減量・中止は、もとの膠原病やリウマチ自体を悪化させたり、副腎不全という別の重い合併症を引き起こしたりする危険があります。用量の調整は、必ず主治医と相談しながら進めるべきことです。

患者さん
量が多いほどリスクが上がるなら、私も危ないかもしれません……。ステロイドをやめたほうがいいですか?
子育て内科医
自己判断でのステロイド中止はかえって危険です。リスクがあるからこそ、定期的に主治医と一緒に股関節の状態をチェックしていくことが大切なんですよ。

見逃したくない症状のサイン

股関節だけとは限らない「痛みの出方」

大腿骨頭壊死症の痛みは、股関節の付け根(そけい部)に出ることが多いのですが、お尻や太もも、さらには膝の痛みとして感じられることもあります。「膝が痛いと思って整形外科を受診したら、実は股関節の病気だった」というケースも珍しくありません。特徴として、歩き始めや立ち上がりの動作でズキッとした痛みが出やすく、しばらく歩いていると和らぐこともありますが、進行すると安静にしていても痛むようになったり、股関節の動きが悪くなって足を組みにくい・靴下が履きにくいといった症状が出てきたりします。

ステロイドを使用中、もしくは使用したことがある方で、次のような症状がある場合は、我慢せずに整形外科(できればリウマチ・膠原病の主治医にも一言相談のうえ)を受診してください。

  • 歩き始めや階段の昇り降りで、股関節・お尻・太もも・膝のどこかにズキッとした痛みが出る
  • 片側だけ足を組みにくい、靴下や靴が履きにくいと感じる
  • 痛みが数日以上続く、または徐々に強くなっている
  • 安静にしていても痛む、夜間痛で目が覚める

特に、壊死が起きてから圧潰までは自覚症状がない期間があるため、「痛みが出た時点ですでに一定程度進行している」ケースもあります。ステロイドを比較的多く使っている、あるいは使っていた期間がある方は、症状がなくても定期診察の際に股関節の違和感がないか主治医に伝えておくとよいでしょう。

検査と診断の流れ

レントゲンだけでは早期にわからないことがある

股関節のレントゲン(X線)検査は基本的な検査ですが、壊死が起きたごく初期の段階では、レントゲン上で異常が写らないことがあります。そのため、症状があるのにレントゲンで異常がはっきりしない場合には、MRI検査が非常に有用です。MRIは骨の内部の血流障害を早期にとらえることができ、レントゲンでは見つけられない段階の壊死も検出できます。ステロイドの使用歴があり症状が疑わしい場合は、MRI検査を提案されることがあります。

日本では、レントゲン所見(骨頭のつぶれや三日月状の陰影など)、MRIや骨シンチグラフィの所見、骨生検の所見といった項目のうち、一定数を満たすことで診断が確定します。診断がついた場合、壊死の範囲や位置、股関節への負荷のかかり方などから、今後つぶれが進みやすいタイプかどうかを予測し、治療方針を決めていきます。

治療の選択肢

保存療法か、手術療法か

治療方針は、壊死の大きさ・位置、圧潰の有無、年齢、症状の程度、日常生活や仕事での活動量などを総合的に考慮して決められます。壊死の範囲が小さく、圧潰のリスクが低いと判断される場合や、症状がない場合は、杖の使用や荷重制限といった保存療法で経過をみることがあります。

一方で、痛みが強い場合や、壊死の範囲・位置から今後つぶれが進みやすいと判断される場合には、手術療法が検討されます。手術には、骨切り術(骨の向きを変えて壊死部分への負担を減らす方法)や、人工股関節置換術(傷んだ関節を人工関節に置き換える方法)などがあり、年齢や生活スタイル、壊死の状態によって選択されます。近年は人工股関節の耐久性も向上しており、比較的若い年代の患者さんでも選択されることが増えています。

指定難病としての医療費助成について

特発性大腿骨頭壊死症は厚生労働省の指定難病に定められており、病状の重症度が一定の基準を満たす場合には医療費助成の対象になることがあります。ただし、診断がついたら自動的に助成が受けられるわけではなく、重症度分類などの基準を満たす必要があります。申請の可否や手続きについては、主治医や医療機関の医療ソーシャルワーカーに相談してみてください。

患者さん
骨がもろくなる「骨粗鬆症」とは別の病気なんですね。どちらも股関節に関係あるから混同していました。
子育て内科医
そうなんです。骨粗鬆症は骨全体がもろくなって骨折しやすくなる病気、大腿骨頭壊死症は血流が途絶えて骨の一部が壊死する病気で、原因もメカニズムも違います。どちらもステロイドがリスクになるので、両方気に留めておいてほしいですね。

ステロイド性骨粗鬆症(GIOP)との違い

どちらもステロイドが関係する骨・関節の合併症ですが、仕組みはまったく異なります。ステロイド性骨粗鬆症(GIOP)は、投与初期に骨を壊す働き(骨吸収)が一時的に高まり、その後は骨をつくる働き(骨形成)が持続的に抑えられることなどにより骨全体の密度が下がり、ちょっとした衝撃でも骨折しやすくなる病気です。一方、大腿骨頭壊死症は骨の一部分への血流が途絶えることで起こる「局所的な」病気で、骨密度自体は正常なこともあります。そのため、骨密度検査(DEXA)の数値が正常だからといって、大腿骨頭壊死症を否定できるわけではありません。股関節の痛みという症状が共通するため紛らわしいのですが、両者は別の検査・別の対策が必要になる点を知っておくとよいでしょう。GIOPの詳しい原因や予防法については、当ブログのステロイド性骨粗鬆症の記事もあわせてご覧ください。

手術後の生活とリハビリ

人工股関節置換術を受けた場合、多くの病院ではリハビリテーションを経て、手術から数週間〜数か月程度で日常生活の動作がかなり回復すると報告されています。ただし、和式トイレでのしゃがみ込みや、股関節を深く曲げる・ひねる動作など、人工関節に負担をかけやすい姿勢は術後しばらく避けるよう指導されることが一般的です。具体的な制限や復帰の時期は、手術方法や患者さんの状態によって異なるため、担当の整形外科医・リハビリスタッフの指示に従ってください。骨切り術の場合は、骨がつくまでの期間、体重をかける量を段階的に増やしていく必要があり、こちらもリハビリのスケジュールは個別に決められます。

よくある質問

Q. ステロイドを使っていれば、みんな大腿骨頭壊死症になるのですか?
A. いいえ、そうではありません。ステロイドはリスクを高める因子のひとつですが、実際に発症するのは一部の方です。ただし、リスクがゼロではないことを知ったうえで、気になる症状があれば早めに相談することが大切です。

Q. 症状がなければMRI検査は不要ですか?
A. 症状がない方全員に一律でMRI検査が推奨されているわけではありません。ステロイドの使用量や症状の有無を踏まえて、主治医が必要性を判断します。心配な場合は、次の受診時に相談してみましょう。

Q. 一度発症したら、必ず手術になりますか?
A. 壊死の範囲が小さく、圧潰のリスクが低いと判断される場合は、杖の使用や荷重制限などの保存療法で経過をみることもあります。手術が必要かどうかは、壊死の大きさ・位置や症状の程度によって異なります。

Q. 反対側の股関節も心配です。両側に起こることはありますか?
A. ステロイド性の大腿骨頭壊死症は両側の股関節に起こることが比較的多く、報告によっては半数以上ともされています。片方の股関節で診断された場合は、もう片方に症状がなくても、主治医から反対側の経過観察を勧められることがあります。指示があれば定期的にフォローしてもらいましょう。

主治医とのコミュニケーションのコツ

膠原病やリウマチの診察では、原疾患の症状(関節の腫れ、皮疹、だるさなど)や血液検査の数値に話題が集中しがちで、「なんとなく気になる股関節の違和感」は後回しにされやすいものです。しかし、大腿骨頭壊死症は早期に見つかるほど治療の選択肢が広がる病気です。次の受診では、次のようなメモを持参してみるのもおすすめです。

  • いつから、どちらの股関節(または太もも・膝)に症状があるか
  • どんな動作で痛みが強くなるか(歩き始め、階段、正座など)
  • 安静にしていても痛むか、夜間に痛みで目が覚めるか
  • これまでに使ったステロイドの量や期間(お薬手帳を持参すると確認しやすくなります)

「これくらいで相談していいのかな」とためらう必要はありません。ステロイドを使う治療を受けているからこそ、小さな違和感でも共有しておくことが、早期発見・早期対応につながります。

日常生活で気をつけたいこと

  • 症状があれば我慢せず伝える:忙しい外来のなかでも、股関節・お尻・太もも・膝の違和感は遠慮なく主治医に伝えましょう。
  • 自己判断でステロイドを変更しない:リスクを心配するあまり自己判断で減量・中止すると、原疾患の悪化や副腎不全につながる危険があります。
  • 過度の飲酒を避ける:アルコールの多量摂取も大腿骨頭壊死症の危険因子のひとつとされています。
  • 転倒・過度な負荷を避ける:診断後は、壊死の状態によって荷重制限が指示されることがあるため、指示があれば守りましょう。
  • 定期受診を継続する:症状がなくても、ステロイドを比較的多く使う治療を受けている場合は、定期的な診察のなかで股関節の状態を確認してもらいましょう。

まとめ

ステロイド性大腿骨頭壊死症は、膠原病やリウマチの治療でステロイドを使う患者さんに起こりうる合併症のひとつです。壊死が起きた直後は自覚症状がないことが多く、圧潰が進んで初めて股関節やお尻、太もも、膝の痛みとして気づかれることが少なくありません。歩き始めの痛みや足の動かしにくさを感じたら、我慢せずに主治医や整形外科に相談してください。レントゲンで異常がなくてもMRIで早期に見つかることもあります。何より大切なのは、リスクを心配して自己判断でステロイドを中止しないこと。気になる症状があるときは、遠慮なく主治医に伝え、一緒に経過を見ていきましょう。この記事の内容は一般的な情報提供であり、実際の診断・治療方針については必ず主治医にご相談ください。

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