「免疫抑制薬を使っているけど旅行できる?」「生物学的製剤の注射を持って飛行機に乗れる?」「海外旅行保険は入れる?」――リウマチ・膠原病患者さんから、こうした旅行に関する質問をよく受けます。結論から言えば、適切な準備をすれば旅行は十分可能です。本記事では、安全に旅を楽しむための具体的なポイントをリウマチ専攻医がわかりやすく解説します。
患者さん


旅行前のチェックリスト
①病状の確認
- 疾患活動性が落ち着いているか
- 感染症がないか
- 最近の薬の変更がないか
- 不安があれば主治医に旅行計画を相談
②必要書類の準備
- お薬手帳:必ず携帯
- 診療情報提供書(英文):海外旅行・長期旅行の場合
- 処方薬の証明書:注射薬・麻薬性鎮痛薬を持参する場合
- 緊急連絡先:主治医・家族の連絡先メモ
③ワクチン接種
免疫抑制薬使用中は生ワクチン(黄熱病など)が原則禁忌となります。渡航先によって必要なワクチンが異なるので、出発の1〜2か月前には確認しましょう。
薬の持ち運び|種類別の注意点
①内服薬
- 必要日数+予備の数日分を持参
- 機内持ち込みと預け荷物の両方に分けて持つ(紛失対策)
- 処方されたPTP包装のまま(中身がわかるように)
②自己注射薬(生物学的製剤)
エタネルセプト・アダリムマブ・トシリズマブなどの自己注射薬は冷蔵保存(2〜8℃)が必要です。
- 専用保冷バッグ+保冷剤で温度管理
- 機内持ち込みが必須(預け荷物は貨物室で凍結温度に達する可能性があるため)
- 液晶温度計で実際の温度を確認できると安心
- 注射針の機内持ち込みは、国内線では証明書類は必須ではないが、保安検査をスムーズにするためお薬手帳等の携帯を推奨。国際線では英文診療情報提供書の持参を強く推奨
③点滴製剤
インフリキシマブ・リツキシマブなどは病院で投与するため、旅行スケジュールに合わせて投与日を主治医と調整しましょう。
飛行機での注意点
①深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)の予防
抗リン脂質抗体症候群(APS)など血栓リスクの高い疾患では特に重要です。
- 1〜2時間ごとに足首を動かす・歩く
- 水分をこまめに摂る(脱水を避ける)
- 弾性ストッキングの着用
- 長時間フライトでは医師に予防の相談を
②機内環境への対策
- 乾燥対策:目薬・マスク・保湿剤(シェーグレン症候群の方は特に)
- 気圧変化による関節痛・関節のこわばり対策に温めグッズを携帯
- 感染対策:手指消毒・マスク
③ X線検査・セキュリティ
注射薬や麻薬系鎮痛薬を持参する場合は、英文診療情報提供書を提示すればスムーズです。事前に航空会社の特別サポート(ヘルプデスク)に相談すると安心です。
海外旅行保険|既往症の取り扱い
一般的な海外旅行保険は既往症の治療をカバーしないことが多いため、要確認です。
確認すべきポイント
- 既往症補償オプションの有無
- 持病による発作・悪化時の補償範囲
- キャッシュレス対応の有無
- 緊急搬送費用の補償(高額になりやすい)
既往症対応の保険例
「ジェイアイ傷害火災保険のt@biho(たびほ)」など、持病・既往症の急な悪化を補償するプランを持つ商品もあります。ただし「治療中の既往症そのものの計画的治療」は通常補償対象外で、商品・契約により補償範囲が異なるため、加入前に補償条件を必ず確認しましょう。
渡航先での注意点
①感染症対策
免疫抑制薬使用中は感染症にかかりやすく、重症化しやすい状態です。
- 水・食品:生水・氷・生野菜・カットフルーツを避ける(特に発展途上国)
- 蚊媒介感染症(マラリア・デング熱)の流行地域は要注意
- 免疫抑制薬使用中で結核蔓延国へ渡航する場合は、事前のIGRA(QFTなど)評価を主治医と相談
②日光対策
SLE・皮膚筋炎・シェーグレン症候群では紫外線で病状が悪化することがあります。
- 日焼け止め(SPF50・PA+++以上)
- つばの広い帽子・サングラス・UVカット衣類
- 真夏の日中の外出を避ける
③現地医療機関の事前リサーチ
- 日本語が通じる病院(外務省「世界の医療事情」を参考に)
- 大使館・領事館の連絡先
- JIH(日本国際保健・医療学会)の渡航相談
国内旅行での注意点
国内旅行は基本的に大きな問題はありませんが、以下に注意してください。
- 温泉:感染症やケガがある時は控える。入浴ガイドの記事を参考に
- 高地:標高の高い場所では息切れに注意(ILD合併例)
- 冷暖房:レイノー現象の方は冷えを避ける
- 緊急時の医療機関:旅行先の病院を事前にチェック






英文診療情報提供書の準備
海外渡航前には主治医に英文の診療情報提供書を依頼しましょう。
記載してもらう内容
- 診断名(英文)
- 現在使用中の薬剤(一般名・用量・投与経路)
- 注射薬・針の持参が必要な旨
- 緊急時の対応
- 主治医の連絡先
※発行に数日〜1週間かかることがあります。早めに依頼を。
まとめ|準備をすれば旅行を楽しめる
- 病状が安定していれば旅行は十分可能
- 薬は機内持ち込み+予備+温度管理
- 英文診療情報提供書を持参
- 既往症対応の海外旅行保険を選ぶ
- 渡航先の感染症・日光対策を準備
- 不安な点は出発前に必ず主治医に相談
慎重な準備を経て、ぜひ素敵な旅行を楽しんでくださいね。
関連記事:

