「最近、血液検査でヘモグロビンが低いと言われた」「なんとなくだるい、疲れやすい」——関節リウマチや膠原病の患者さんのなかには、こんな悩みを抱えている方がとても多くいます。実は、リウマチ・膠原病では「貧血」が合併しやすいことが知られています。しかし、一口に貧血といっても、その原因はひとつではありません。炎症そのものによる貧血、鉄が足りない貧血、お薬の影響による貧血——これらは原因も対処法もまったく異なります。この記事では、リウマチ専攻医である私が、膠原病・リウマチに合併する貧血の種類・原因・血液検査の読み方・治療法をわかりやすくまとめました。
なぜリウマチ・膠原病では貧血が起きやすいの?
リウマチ・膠原病は、免疫の異常によって「慢性的な炎症」が体の中で起き続ける病気です。この慢性炎症が、いくつかのメカニズムを通じて貧血を引き起こします。また、一部の治療薬が骨髄の働きや赤血球の産生に影響することも、貧血の原因になります。
リウマチ・膠原病で見られる貧血には、大きく分けて以下の4つがあります。
- ① 炎症性貧血(慢性疾患に伴う貧血・ACD)
- ② 鉄欠乏性貧血
- ③ 薬剤性貧血(メトトレキサートなどによる)
- ④ 自己免疫性溶血性貧血(AIHA)— 主にSLEで
それぞれを順番に解説していきましょう。
①炎症性貧血(ACD)とは?リウマチで最も多い貧血
関節リウマチをはじめとするリウマチ・膠原病の患者さんに最もよく見られる貧血が、炎症性貧血(Anemia of Chronic Disease/Inflammation、ACD)です。慢性炎症に伴う貧血とも呼ばれ、関節リウマチ患者さんの3〜4割程度に見られるとされています。
ACDの仕組み——ヘプシジンが鉄を「封印」する
慢性炎症が起きると、肝臓からヘプシジン(Hepcidin)というホルモンが大量に分泌されます。このヘプシジンは、腸管での鉄の吸収を抑え、マクロファージ(免疫細胞)が取り込んだ鉄を体内に留めて離さなくするように働きます。
その結果、体の中に鉄は存在するのに、骨髄が赤血球を作るために鉄を利用できなくなってしまいます。まるで「鉄が体内に封印されてしまう」ようなイメージです。
さらに、炎症性サイトカイン(IL-1、IL-6、TNF-αなど)は以下の複合的な影響をもたらします:
- 赤血球の寿命を短くする(正常より早く壊れてしまう)
- 腎臓でのエリスロポエチン(EPO:造血ホルモン)の産生を低下させる
- 骨髄での赤血球の産生効率を低下させる
患者さん


ACDの血液検査の特徴
ACDは通常、軽度から中等度の貧血(Hb 9〜11 g/dL程度)として現れます。赤血球の大きさは正常〜やや小さめ(正球性〜軽度小球性)です。
血液検査での特徴は以下のとおりです:
| 検査項目 | ACD(炎症性貧血) | 鉄欠乏性貧血 |
|---|---|---|
| Hb(ヘモグロビン) | 低下 | 低下 |
| MCV(赤血球の大きさ) | 正常〜軽度低下 | 低下(小球性) |
| 血清鉄 | 低下 | 低下 |
| フェリチン | 正常〜高値 | 低下 |
| TIBC(総鉄結合能) | 低下〜正常 | 上昇 |
| CRP | 上昇(炎症あり) | 正常(出血なければ) |
鑑別の最大のポイントはフェリチン値です。ACDではフェリチンが正常〜高値になる一方、鉄欠乏性貧血ではフェリチンが低下します。ただし、ACDと鉄欠乏が同時に存在する場合(混合型)もあり、その場合はフェリチンが「偽正常」を示すことがあるため、解釈に注意が必要です。
ACDの治療——炎症を抑えることが最大の治療
ACDに対する最も有効な治療は、基礎疾患である関節リウマチ・膠原病の炎症をしっかりコントロールすることです。病気の炎症が落ち着いてくると、貧血も自然と改善していきます。
とくに、IL-6阻害薬(トシリズマブ・サリルマブ)は、IL-6受容体に結合してIL-6のシグナル伝達をブロックすることでヘプシジン産生を抑え、貧血の改善にも効果的であることが研究で示されています(IL-6そのものを直接中和する薬ではなく、IL-6が受容体に結合するのを妨げる薬です)。
炎症が続く限り鉄剤を補充してもACDはなかなか改善しないだけでなく、鉄欠乏がはっきりしないままの鉄剤投与は病原体の増殖を助けたり酸化ストレスを招いたりしてかえって不利益になる可能性もあるため、鉄欠乏の合併が確認されない限り安易な鉄剤補充はせず、まずは原疾患の治療が優先です。



②鉄欠乏性貧血——NSAIDsによる消化管出血が原因になることも
リウマチ・膠原病の患者さんに見られる2つ目の貧血が、鉄欠乏性貧血です。ACDとは違い、体内の鉄の総量が実際に不足している状態です。
なぜ鉄不足になる? NSAIDsとステロイドの影響
リウマチ・膠原病の治療では、痛み止めとしてNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬:ロキソニン・ボルタレン・セレコックスなど)が使われることがあります。NSAIDsには胃腸の粘膜を保護するプロスタグランジンを減らす作用があり、長期使用によって胃潰瘍・十二指腸潰瘍・慢性的な消化管出血が起きることがあります。
じわじわとした消化管出血が続くことで、鉄が少しずつ失われ、鉄欠乏性貧血が起きます。ステロイドも消化管に影響を与えることがあります(特にNSAIDsとの併用時)。
その他の原因:
- 女性の月経による失血(特に月経が多い方)
- 食事からの鉄摂取不足(偏食・食欲低下)
- 消化管の病気(胃がん・大腸がん・ポリープ・炎症性腸疾患など)
鉄欠乏性貧血の症状
鉄欠乏性貧血では、貧血の一般的な症状(だるさ・疲れやすさ・息切れ・動悸・顔色が悪い)のほかに、鉄欠乏に特有の症状が現れることがあります:
- スプーン爪(爪が薄くなって反り返る)
- 口角炎(口の端が切れやすい)
- 舌炎(舌がツルツルになる)
- 氷をかじりたくなる「氷食症」
- 飲み込みにくさ(Plummer-Vinson症候群)
鉄欠乏性貧血の治療
鉄欠乏性貧血には鉄剤の補充が有効です。
- 経口鉄剤:フェロミア(クエン酸第一鉄ナトリウム)、インクレミンシロップ、フェルム、リオナ(リン吸着も兼ねる)など
- 静脈内鉄剤:フェジン(含糖酸化鉄)、モノヴァー(デルイソマルトース第二鉄)、フェインジェクト(カルボキシマルトース第二鉄)など。経口で胃腸障害がある場合や重症例に
経口鉄剤は空腹時のほうが吸収率が高いですが、胃に負担がかかる場合は食後でも可。ビタミンCと一緒に摂ると吸収率が上がります。お茶・コーヒーのタンニンは鉄の吸収を妨げるため、鉄剤服用時は水かぬるま湯で。
また、消化管出血が疑われる場合は原因検索が必須です。胃カメラや大腸カメラで出血源を確認することも重要です。NSAIDsを長期使用中の方には、胃を守るプロトンポンプ阻害薬(PPI:オメプラゾール・ランソプラゾールなど)の同時服用が推奨されています。






③薬剤性貧血——MTXや免疫抑制薬が原因になることも
メトトレキサート(MTX)による葉酸欠乏性貧血(大球性貧血)
関節リウマチの治療の柱であるメトトレキサート(MTX)は、葉酸の代謝を阻害する薬です。葉酸はDNAの合成に欠かせないビタミンのため、葉酸が不足すると赤血球が正常に作られなくなり、大きくて未熟な赤血球(巨赤芽球)が増えます。これを大球性貧血(巨赤芽球性貧血)といいます。
血液検査での特徴:
- Hb:低下
- MCV(平均赤血球容積):上昇(大球性——赤血球が大きくなる)
- 血清葉酸:低下
- ビタミンB12:正常(B12欠乏との鑑別が必要)
この問題を予防するために、MTX内服中は葉酸(フォリアミン錠)を服用することが標準的な管理となっています(日本のガイドラインでは5mg/週以内が目安)。ここで大切なのは服用のタイミングで、MTXを飲んだ日と同じ日ではなく、MTX最終内服から24〜48時間あけて葉酸を服用します。MTXと同じタイミングで葉酸を飲んでしまうと、MTXの効果自体を弱めてしまうことがあるためです。葉酸の補充により、口内炎・吐き気などのMTX副作用とともに、大球性貧血のリスクを大幅に減らすことができます。






アザチオプリン(イムラン)による骨髄抑制
SLE・血管炎・多発性筋炎などで使われるアザチオプリン(イムラン)は、骨髄での血球産生を抑制することがあります(骨髄抑制)。白血球・赤血球・血小板のすべてが減少する可能性があるため、定期的な血液検査での確認が必要です。
アザチオプリンによる重い骨髄抑制のリスクには、遺伝的な体質が関わることがわかっています。欧米人ではTPMT(チオプリンメチルトランスフェラーゼ)という酵素の活性が低い方でリスクが高いことが知られていますが、日本人を含むアジア人ではTPMT低活性はまれで、むしろ「NUDT15」という遺伝子の多型の頻度が高く、これがアザチオプリンによる重篤な骨髄抑制・脱毛のリスク因子として重要視されています。そのため日本では、アザチオプリン開始前にNUDT15の遺伝子型検査を行うことが推奨されています。
ヒドロキシクロロキン(プラケニル)・スルファサラジン
ヒドロキシクロロキンやスルファサラジンは、まれに血球減少を引き起こすことがあります。G6PD欠損症のある患者さんでスルファサラジンにより溶血性貧血が起きることが知られています。定期的な血液検査でのモニタリングが大切です。
④自己免疫性溶血性貧血(AIHA)——SLEで特に注意
AIHAとは?
自己免疫性溶血性貧血(AIHA:Autoimmune Hemolytic Anemia)は、免疫の異常によって自分自身の赤血球に対する自己抗体が作られ、赤血球が正常より早く壊されて(溶血)起きる貧血です。
膠原病のなかでは特にSLE(全身性エリテマトーデス)との関連が深く、SLEの血液学的な合併症のひとつとして重要です。SLEの活動性と連動して現れることが多く、疾患活動性の指標のひとつにもなります。
AIHAの症状と血液検査
AIHAでは、通常の貧血症状(だるさ・息切れ)に加えて、溶血に伴う特徴的な所見が現れます:
- 黄疸(皮膚・白目が黄色くなる)
- コーラ色〜茶色の尿(ヘモグロビン尿)
- 脾臓の腫れ(脾腫)
血液検査での特徴:
- Hb:低下(急激に低下することも)
- MCV:正常〜上昇(網状赤血球が増えるため)
- 網状赤血球(レチキュロサイト):上昇(骨髄が代償的に赤血球を多く産生)
- 間接ビリルビン:上昇(赤血球が壊れると出てくる)
- LDH(乳酸脱水素酵素):上昇
- ハプトグロビン:低下
- 直接クームス試験(直接Coombs試験):陽性——診断のための最も重要な検査






AIHAの治療
SLEに合併したAIHAの第一選択治療はステロイド(プレドニゾロン)高用量投与です(1mg/kg/日程度から開始)。多くの場合ステロイドで反応しますが、難治例や再発例では以下の治療が追加されます:
- アザチオプリン(イムラン)
- シクロスポリン(ネオーラル)
- リツキシマブ(リツキサン:抗CD20抗体)
- ダラツムマブ(難治性AIHAへの応用も研究中)
重症例や急性期には輸血が必要になることもあります。
血液検査の読み方まとめ——貧血の種類を見分けるポイント
貧血の種類を見分けるには、複数の血液検査の値を組み合わせて判断します。以下の表を参考にしてください:
| 貧血の種類 | Hb | MCV | フェリチン | 血清鉄 | TIBC | 特徴的検査 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 炎症性貧血(ACD) | 低下 | 正常〜低下 | 正常〜高値 | 低下 | 低下〜正常 | CRP上昇、炎症の存在 |
| 鉄欠乏性貧血 | 低下 | 低下 | 低下 | 低下 | 上昇 | スプーン爪など |
| MTX性(葉酸欠乏) | 低下 | 上昇 | 正常 | 正常 | 正常 | 葉酸低下、MTX内服中 |
| AIHA(溶血性) | 低下 | 正常〜上昇 | 正常〜高値 | — | — | 直接Coombs陽性、間接ビリルビン上昇 |
このように同じ「貧血」でも血液検査のパターンが異なります。担当医はこれらの検査値を総合的に判断して原因を特定し、適切な治療を選択します。
日常生活での注意点と工夫
食事で鉄分を意識する
鉄欠乏性貧血が合併している場合、食事での鉄分補給も大切です。
ヘム鉄(吸収率が高い・10〜30%):赤身の肉(牛・豚)、鶏レバー、マグロ・カツオなどの赤身魚、あさり・しじみ
非ヘム鉄(吸収率は低め・1〜8%):ほうれん草・小松菜などの青菜、大豆・豆腐・納豆、ひじき・のり、ドライフルーツ
非ヘム鉄はビタミンCと一緒に摂ると吸収率が上がります(レモン汁、オレンジジュース、パプリカなど)。一方、タンニン(お茶・コーヒー・赤ワイン)やフィチン酸(穀物・豆類の外皮)は鉄の吸収を妨げます。鉄剤を飲む際はお茶やコーヒーを避け、水かぬるま湯で服用しましょう。
だるさ・息切れがあるときは無理しない
貧血がある時期は酸素を体中に運ぶ能力が低下しているため、体が疲れやすい状態にあります。無理な運動や長時間の活動は控え、こまめに休息を取りましょう。
特に病気の活動性が高く炎症が強い時期は、貧血と疲労感が重なりやすいです。「疲れる」「息切れがする」という変化に気づいたら、次の外来で必ず伝えてください。
定期的な血液検査の継続を
貧血の状態は血液検査で客観的に確認できます。主治医から指示された定期検査をきちんと受け、Hb値やフェリチン値の推移を把握しておくことが重要です。
「なんとなくだるい」という自覚症状が続く場合でも、血液検査で初めて貧血が発覚するケースも多いです。気になる症状があれば積極的に申し出ましょう。
ステロイドを飲んでいる方はPPIの確認を
ステロイドとNSAIDsを同時に服用している方は消化管出血のリスクが上がります。プロトンポンプ阻害薬(PPI)が処方されているか担当医に確認してください。
まとめ
リウマチ・膠原病と貧血は密接に関係しています。今回のポイントをまとめます。
- ✅ 最も多いのは炎症性貧血(ACD)——炎症のコントロールが治療の鍵
- ✅ NSAIDsによる消化管出血から鉄欠乏性貧血が起きることも。PPI併用とフェリチンチェックを
- ✅ MTX服用中は葉酸の補充が必須——大球性貧血・口内炎の予防に
- ✅ SLEではAIHA(直接Coombs試験陽性、黄疸・コーラ色尿)に注意
- ✅ 血液検査ではフェリチン・MCV・直接Coombs試験が貧血の種類を見分けるカギ
- ✅ 食事で鉄分を補いつつ、定期的な血液検査で経過確認を
「だるさ」「息切れ」「顔色が悪い」など気になる症状が続く場合は、自己判断せず担当医に相談してください。貧血の原因によって治療法はまったく異なりますので、最終的な診断と治療方針については必ず主治医にご相談ください。

