「こめかみがズキズキ痛む」「ものを噛んでいると顎が疲れて痛くなる」「片目が急に見えにくくなった」——こうした症状が50歳以降に急に現れたら、それは単なる片頭痛や疲れ目ではなく巨細胞性動脈炎(きょさいぼうせいどうみゃくえん、GCA)、別名「側頭動脈炎」のサインかもしれません。巨細胞性動脈炎は発見が遅れると数日〜数週間で永久的な失明につながることがある、リウマチ・膠原病領域の中でも特に緊急性の高い病気です。この記事では、巨細胞性動脈炎の症状の見分け方から、2026年改訂版の大型血管炎診療ガイドラインに基づく最新治療まで、リウマチ専攻医がわかりやすく解説します。
巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)とはどんな病気?
巨細胞性動脈炎は、太い動脈の壁に炎症が起こる「大型血管炎」というグループに分類される自己免疫疾患です。免疫を担うマクロファージやT細胞が動脈の壁に入り込み、「肉芽腫(にくげしゅ)」と呼ばれる炎症のかたまりを作ることで血管の壁が厚く腫れ上がり、血液の通り道が狭くなったり、詰まってしまったりします。
特にこめかみを走る「浅側頭動脈」に炎症が起こりやすいことから「側頭動脈炎」とも呼ばれますが、実際には後頭動脈、眼動脈、椎骨動脈、さらには大動脈やその主要な分枝まで、全身のさまざまな中〜大型動脈に炎症が広がることがあります。
どんな人がかかりやすいのか
巨細胞性動脈炎は50歳以上で発症し、平均発症年齢はおよそ70歳前後と、高齢者に多い病気です。実際、2022年のACR/EULAR分類基準でも「診断時年齢50歳以上」はこの病気に分類するための絶対条件の一つとされているほど、50歳未満での発症はまれです。北欧・北米出身の白人女性にやや多いとされますが、日本人でも決してまれな病気ではなく、頭痛や視力障害を訴える高齢の患者さんを診るときには常に念頭に置くべき疾患です。
患者さん


こんな症状に注意——巨細胞性動脈炎のサイン
国内の報告では、初発症状として「頭部の痛み(約71%)」「発熱・体重減少・倦怠感などの全身症状(約41%)」「視力障害(約31%)」が多いとされています。代表的な症状を整理すると次のとおりです。
新しく出現した頭痛・こめかみの痛み
今まで経験したことのないタイプの頭痛が、片側または両側のこめかみを中心に現れます。頭皮に触れる、髪をとかす、枕に頭をのせるだけで痛みを感じる「頭皮の圧痛(アロディニア)」も特徴的で、側頭動脈が拍動しにくくなったり、硬く触れたりすることもあります。
顎跛行(がくはこう)
硬いものを噛んだり、長く会話をしたりすると顎や舌、こめかみのあたりの筋肉が疲れて痛くなり、休むと軽快する症状です。動脈の血流不足(虚血)によって起こる、比較的特異度の高いサインとされています。
視力障害・複視(最も注意すべき症状)
巨細胞性動脈炎で最も恐ろしいのが視力障害です。眼球に血液を送る動脈に炎症が及ぶと「虚血性視神経症」を起こし、痛みを伴わずに突然、片目の視力が低下したり、視野の一部が欠けたり、物が二重に見えたり(複視)します。海外の報告では40%以上にこうした眼症状がみられるとされ、いったん失明すると視力の回復は難しく、放置すればもう片方の目にも同様の障害が及ぶ危険があります。「急に目が見えにくい」という症状があれば、それは様子を見てよい症状ではなく、緊急受診が必要なサインだと覚えておいてください。
全身症状
原因不明の発熱、体重減少、強い倦怠感、寝汗なども高頻度にみられます。血液検査でCRPやESR(赤血球沈降速度)が著しく高くなることが多く、「原因不明の炎症反応上昇」として紹介されるケースも少なくありません。食欲不振や気分の落ち込みを伴うこともあり、周囲からは「年齢的な体力低下」と受け取られてしまい、発見が遅れる一因にもなっています。高齢の方でこうした症状が数週間単位で続く場合は、風邪や疲労として様子を見続けるのではなく、血液検査を含めた評価を受けることをおすすめします。
リウマチ性多発筋痛症(PMR)との深い関係
巨細胞性動脈炎は、両肩や股関節まわりの強いこわばり・痛みを特徴とする「リウマチ性多発筋痛症(PMR)」と密接な関係があります。報告によって幅がありますが、巨細胞性動脈炎の患者さんのおよそ3〜6割にPMRの合併がみられ、逆にPMRの患者さんの1〜2割程度に巨細胞性動脈炎が隠れているとされます(報告によってはさらに高頻度との報告もあります)。そのため、PMRと診断された患者さんに新しい頭痛や視力の変化が出てきた場合は、巨細胞性動脈炎の合併を疑って追加の検査を行うことが重要です。
診断のためにどんな検査をするのか
血液検査
CRP、ESR(赤沈)といった炎症マーカーの上昇を確認します。多くの患者さんでこれらの値が著明に上昇しますが、正常範囲でも巨細胞性動脈炎を完全には否定できない点には注意が必要です。
画像検査(超音波エコー)
浅側頭動脈のドップラーエコー検査で、血管の壁が黒く縁取りのように厚く見える「ハロー徴候」が確認できれば、診断の有力な手がかりになります。近年は生検よりも先に、低侵襲なエコー検査を行う施設が増えています。大動脈やその分枝まで炎症が及んでいないかを調べるために、PET-CTやMRIなどの画像検査を追加することもあります。
側頭動脈生検
浅側頭動脈の一部を切除し、顕微鏡で炎症細胞や巨細胞の有無を確認する検査です。組織は摘出後に縮むため、病理標本として十分な長さ(固定後で1〜1.5cm程度)を確保できるよう、採取時にはそれよりも長め(2cm前後)に切除することが望ましいとされます。診断の確定に有用ですが、炎症が動脈に「飛び石状」に分布するため、生検が陰性でも病気を否定しきれないことがあります。なお、視力障害など緊急性が高い場合には、生検の結果を待たずにステロイド治療を先行させます。ステロイド開始後14〜28日程度までは生検で陽性所見が得られる可能性があるとされているため、治療を優先しても診断の手がかりが失われるわけではありません。
治療の実際——ステロイドと新しい治療の組み合わせ
ステロイド(グルココルチコイド)による初期治療
巨細胞性動脈炎と診断された場合、あるいは強く疑われる場合は、視力障害などの重篤な合併症を防ぐため、診断確定を待たずに速やかにステロイド治療を開始します。目や中枢神経に症状がない場合はプレドニゾロン換算で1日あたり0.5〜1mg/kgほどの高用量から開始するのが一般的です。すでに視力障害が急速に進んでいる場合や、両目に及ぶリスクが高い場合には、点滴で大量のステロイドを3日間程度投与する「ステロイドパルス療法」が選択されます。
ステロイドの減量(テーパリング)スケジュール
ステロイドは炎症を強力に抑える一方、長期に大量投与を続けると骨粗鬆症、糖尿病、感染症、白内障などの副作用リスクが高まります。国際的な指針では、開始から2〜3か月以内に1日15〜20mgまで、1年以内に1日5mg未満まで減らしていくことが目標とされています。ただし急に減らしすぎると再燃するため、症状や炎症マーカーを見ながら個々の患者さんに合わせて慎重に調整します。
ステロイドを節約する薬(ステロイドスペアリング治療)
近年最も大きく変わったのが、ステロイド単独治療から「ステロイド+分子標的薬」への転換です。
- トシリズマブ:IL-6の働きをブロックする生物学的製剤で、皮下注射として使用します。日本での承認された効能・効果は「既存治療(ステロイドなど)で効果不十分な巨細胞性動脈炎」ですが、根拠となった大規模臨床試験(GiACTA試験)では新規発症例・再燃例の両方で再燃を抑えステロイドの総投与量を減らせることが示されており、2026年改訂版の大型血管炎診療ガイドラインでもステロイド単独より併用が提案されています。実臨床では、診断早期からステロイドと併用を開始することも少なくありません。
- メトトレキサート(MTX):生物学的製剤に比べて安価な選択肢です。ただし日本国内で承認されているMTXの効能・効果に巨細胞性動脈炎は含まれておらず、この病気への使用は保険適用のない「適応外使用」にあたります。海外のガイドラインではステロイド抵抗性・再発例やトシリズマブが使いにくい場合の代替として提案されることがありますが、使用する際はその位置づけについて必ず主治医から説明を受けてください。
- ウパダシチニブ:2025年に巨細胞性動脈炎への適応追加が承認された飲み薬のJAK阻害薬で、対象は「既存治療で効果不十分な」患者です。臨床試験で寛解維持とステロイド減量への効果が示され、注射が苦手な患者さんの新しい選択肢として期待されていますが、2026年改訂版ガイドラインの治療アルゴリズムには本記事執筆時点でまだ正式には組み込まれておらず、今後の改訂で位置づけが検討される見込みの薬剤です。
これらを組み合わせることで、患者さん一人ひとりの年齢、骨密度、糖尿病の有無、感染症リスクなどを踏まえた治療を主治医と相談しながら選んでいくことになります。
日常生活で気をつけたいこと
視覚症状のセルフチェック
治療中であっても、急な視力低下、目のかすみ、視野の一部が欠ける、物が二重に見えるといった症状が新たに出た場合は、様子を見ずにすぐに主治医または眼科・救急を受診してください。片目に症状が出た段階で速やかに治療を強化することが、もう片方の目を守ることにつながります。
ステロイド治療中の生活の工夫
骨粗鬆症予防のためのカルシウム・ビタミンDの補充や骨密度検査、血糖・血圧の定期チェック、感染症予防のための手洗い・ワクチン接種など、ステロイドを長期に使う患者さんに共通する注意点はこのブログの他の記事でも詳しく解説していますので、あわせて参考にしてください。
見逃されやすい理由——似ている病気との違い
巨細胞性動脈炎の頭痛は、片頭痛や緊張型頭痛、あるいは「年齢のせいの頭痛」「肩こりからくる頭痛」として見過ごされてしまうことが少なくありません。見分けるヒントになるのは、①これまで経験したことのないタイプの頭痛が「新規に」出現していること、②発症年齢が50歳以上であること、③発熱・体重減少・強い倦怠感といった全身症状を伴っていること、④血液検査でCRPやESRが顕著に高いことです。三叉神経痛や側頭下顎関節症(顎関節症)も顎まわりの痛みを起こしますが、こちらは咀嚼で「疲れて痛くなり休むと軽快する」という顎跛行特有のパターンを伴わないことが多く、鑑別のポイントになります。歯科や耳鼻科、脳神経内科など複数の科を受診してようやく診断にたどり着くケースもあるため、「原因不明の頭痛+高齢+炎症反応上昇」という組み合わせを見たら、リウマチ膠原病内科への紹介を考える必要があります。
大血管型(大動脈炎型)の巨細胞性動脈炎にも注意
頭部の症状が目立たず、発熱や倦怠感、原因不明の炎症反応上昇だけで経過し、後になって大動脈瘤や大動脈解離といった形で発見されるタイプの巨細胞性動脈炎もあります。このタイプは「不明熱」の原因として精査される中で偶然発見されることもあり、高齢の方の不明熱の鑑別として大型血管炎が念頭に置かれることがあるのはこのためです。定期的な画像フォローによって、大動脈の拡張がないかを確認していくことも治療の重要な一部になります。
ご家族が気をつけてあげたいこと
高齢のご家族が「最近、頭が痛いと言っている」「硬いものを噛みたがらなくなった」「新聞の文字が急に見えにくくなったと言っている」といった変化に気づいたときは、加齢のせいと決めつけず、早めの受診を後押ししてあげてください。特に視力の変化については、本人が「年のせい」「疲れ目」と自己判断して受診が遅れてしまうことが多い症状です。片方の目に症状が出た段階でいかに早く治療を開始できるかが、もう片方の目の視力を守れるかどうかを左右します。少しでも様子がおかしいと感じたら、次の外来予約を待つのではなく、当日〜翌日中の受診や救急受診を検討する、という心構えを持っておくとよいでしょう。
よくある質問
治療期間はどのくらいかかりますか?
ステロイドを中心とした治療は、多くの場合1〜2年、あるいはそれ以上に及びます。トシリズマブなどの分子標的薬を併用する場合も、一定期間の治療後に休薬を検討することはありますが、自己判断で薬を中止すると再燃のリスクが高まるため、必ず主治医の指示に従って減量・中止のタイミングを決めていく必要があります。






再燃することはありますか?
ステロイドを減量していく過程で、頭痛や全身症状、炎症マーカーの再上昇といった形で再燃することは珍しくありません。再燃した場合は、ステロイドを一時的に増量したり、トシリズマブなどの分子標的薬を新たに導入・切り替えたりして炎症を再度抑え込みます。定期的な受診で自覚症状や採血結果をチェックし続けることが、再燃の早期発見につながります。
日常生活やお仕事は続けられますか?
治療により炎症が落ち着いていれば、多くの方が通常の日常生活や仕事を続けられます。ただしステロイドの副作用対策として骨密度検査や血糖・血圧のチェックを定期的に行うこと、感染症の流行期にはより一層の予防を心がけることが大切です。体調の変化や新しい症状に気づいたときにすぐ相談できるよう、かかりつけ医との関係を継続しておくことをおすすめします。
まとめ
巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)は、50歳以上の方に新しく出現した頭痛、こめかみの圧痛、顎跛行、そして何より急な視力障害が現れたときに疑うべき、緊急性の高い血管の病気です。放置すれば失明という重い後遺症につながる一方で、早期にステロイド治療を開始し、トシリズマブやウパダシチニブといった新しい治療を組み合わせることで、視力を守りながら長期的な副作用を抑えることも可能になってきました。「年のせいの頭痛」「疲れ目」と自己判断せず、気になる症状があれば早めにリウマチ膠原病内科や眼科を受診しましょう。実際の診断・治療方針は、症状の程度や合併症の有無によって一人ひとり異なりますので、最終的な判断は必ず主治医・かかりつけ医にご相談ください。

