「あ、白目をむいて体がガクガクしている!」——目の前で赤ちゃんが熱性けいれんを起こすと、多くの親御さんは頭が真っ白になります。熱性けいれんは生後6か月ごろから起こり得る、乳幼児にとって決してめずらしくない発作です。この記事では、日本小児神経学会の「熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023」をもとに、初めてのけいれんで慌てないための家庭での対処法と、救急車を呼ぶべき目安を内科医ママの視点でわかりやすく解説します。
熱性けいれんとは?
熱性けいれん(熱性発作)とは、生後6か月から5歳(60か月)ごろまでの乳幼児期に、主に38℃以上の発熱に伴って起こる発作性の症状で、髄膜炎や脳炎といった中枢神経の感染症、電解質異常など、他に明らかな原因がないものを指します。日本人では乳幼児のおよそ5〜11%程度が経験すると報告されており、決してまれな出来事ではありません。多くは発熱してから24時間以内、特に熱が上がり始めのタイミングで起こりやすいのが特徴です。
0歳の赤ちゃんでも起こる?
発症のピークは生後12〜18か月ごろとされていますが、生後6か月を過ぎればすでに発症しうる年齢です。0歳のうちに初めての発熱性のウイルス感染症(突発性発疹やインフルエンザ、RSウイルス感染症など)にかかったタイミングで、初めての熱性けいれんを経験するご家庭は少なくありません。
実際に起きたときの症状
典型的には、次のような症状が突然現れます。
- 白目をむく、視線が一点に固定される
- 体(手足や顔)がガクガクと左右対称にふるえる、あるいは全身がこわばって突っ張る
- 呼びかけに反応しない、意識がない
- 唇のまわりが一時的に白っぽく、または紫っぽく見えることがある
ほとんどの場合、発作は数分以内に自然におさまります。発作が終わったあとは、そのままウトウトと眠ってしまうことが多く、これは体力を大きく使った後の自然な反応です。
患者さん


家庭でのすぐの対処法——5つのポイント
①まず時間を確認する
けいれんが始まった時刻をスマートフォンなどですぐに確認しましょう。「長く感じたけれど実際は1分だった」ということはよくあります。発作の持続時間は、後で受診した際に治療方針を決めるうえでとても重要な情報になるだけでなく、5分以上続く場合は次の「救急車を呼ぶべき目安」の対象になるため、②〜⑤の対応と並行して必ず時間を計り続けてください。5分を超えたと分かった時点で、まだ発作が続いていればその場で救急要請してください。
②安全な場所に、体を横向きにして寝かせる
周囲の危険な物(家具の角、ストーブなど)を避け、平らな場所に寝かせます。嘔吐した際にそれを気管に詰まらせて窒息するのを防ぐため、顔と体を横向きにしてあげてください。
③口の中に何も入れない
「舌をかまないように」とタオルや指を口に入れるのは絶対にやめてください。かえって窒息やけがの原因になります。舌をかんで多少出血しても、熱性けいれん自体で命に関わることは通常ありません。また、体を強く押さえつけたり、人工呼吸をしたりする必要もありません。
④症状をよく観察する(できれば動画を撮る)
けいれんが体の左右対称に起きているか、片側だけに強く出ているか、目の向きはどうか、顔色はどうかを観察します。可能であれば、スマートフォンで発作の様子を動画に撮っておくと、後で医師が診断する際に非常に役立ちます。安全確保を優先したうえで、余裕があれば試してみてください。
⑤発作がおさまったら顔色・呼吸を確認する
発作が終わったら、呼吸をしているか、顔色が戻ってきているかを確認しながら、そのまま安静に休ませます。眠ってしまうことが多いですが、意識がもうろうとする時間が長すぎないかも見ておきましょう。
救急車を呼ぶべき目安
日本小児神経学会は、けいれんが5分以上持続する場合を「けいれん重積状態」と呼び、救急車などで病院に搬送する必要がある状態としています。それ以外にも、次のような場合はためらわず救急要請してください。
- けいれんが5分以上続いている
- けいれんが止まったあとも意識がはっきり戻らない、ぐったりしたままである
- 唇や顔色が紫色(チアノーゼ)のままで戻らない、呼吸が苦しそうである
- 短い発作を繰り返し、その間に意識が完全に戻らない
- けいれんの前後に嘔吐を繰り返す、頭を強く打った後である、体の片側だけしか動かないなど、いつもと違う様子がある
発作が数分以内に自然におさまり、その後は意識もはっきりして顔色も良い場合は、上記のような救急要請の対象にはあたりません。ただし初めての熱性けいれんのときは、たとえ短時間でおさまり全身状態が良好であっても、原因検索や今後の見通しの説明のために、その日のうちに小児科(時間帯によっては救急外来)を受診することをおすすめします。救急車を呼ぶほどではないと感じても、判断に迷うときはためらわずに救急相談ダイヤル(#8000など)を利用してください。
夜間・休日で判断に迷ったら
深夜や休日にけいれんが起きると、救急外来を受診すべきか、朝まで待って小児科を受診すべきか迷う方も多いはずです。そんなときは、各都道府県が窓口となっている小児救急電話相談「#8000」に電話をすれば、看護師や医師から症状に応じたアドバイスを受けられます。すでに発作が止まっていて意識や顔色が良好であっても、初めての発作である、けいれんの時間がはっきりわからない、といった不安があるときは、遠慮せずに電話相談や夜間救急を利用して構いません。「これくらいで受診していいのか」と迷うこと自体が、受診・相談のサインだと考えてください。
単純型と複雑型の違い
熱性けいれんは、次のいずれにも当てはまらない「単純型熱性けいれん」と、1つでも当てはまる「複雑型熱性けいれん」に分類されます。
- けいれんの持続時間が15分以上
- 24時間以内に発作を繰り返す
- 体の片側だけに起こるなど、左右非対称な「焦点性」の要素がある
単純型熱性けいれんは、多くの場合その後の発達やてんかん発症リスクへの影響がほとんどなく、予後は良好とされています。複雑型の場合は、原因検索のためにより詳しい検査や、場合によっては入院・専門医への紹介が必要になることがあります。いずれにしても、実際の分類やその後の対応が必要かどうかは、診察した医師の判断によりますので、自己判断せず受診時に相談してください。
受診したら何をするのか
受診時には、発作の様子(持続時間、左右差の有無、意識の状態)や、発作前後の体温、これまでの発達の様子、家族に熱性けいれんやてんかんの既往がある方がいるかなどを聞かれます。発熱の原因を調べるための診察や、必要に応じて血液検査が行われることもあります。初回の単純型熱性けいれんでは、通常、頭部の画像検査や脳波検査、腰椎穿刺(髄液検査)が全例で必須になるわけではありませんが、髄膜炎など他の病気が疑われる場合や、複雑型の場合には追加の検査が検討されます。
予防のための坐薬(ジアゼパム)が必要なケースもある
すべての子どもに予防投薬が必要なわけではなく、ガイドラインでは次のいずれかに該当する場合に検討するとされています。
- 過去に15分以上の長いけいれん(遷延性発作)を1回でも経験している
- 次の6項目のうち2つ以上にあてはまる発作を、これまでに2回以上繰り返している:焦点性の要素がある発作や24時間以内の反復、発達の遅れなど神経学的異常の既往、家族に熱性けいれんの既往がある、生後12か月未満での発症、発熱に気づいてから1時間未満での発作、38℃未満の発熱時の発作
つまり、1回の発作にリスク因子がいくつか重なっただけでは対象にならず、原則として上記のような発作を2回以上繰り返した場合に予防投与が検討される、という点がポイントです。投与の目安期間は、最後の発作から1〜2年、または4〜5歳ごろまでとされることが一般的です。使うかどうか、いつまで続けるかは、けいれんの回数やタイプ、ご家庭の状況によって主治医と相談しながら決めていきます。
予防接種はいつから再開していい?
以前は「熱性けいれんの後は2〜3か月ワクチンを控えるべき」という考え方が広まっていましたが、これは現在では見直されています。熱性けいれん診療ガイドライン2023では、接種当日の体調に問題がなければ、最後の発作からの期間に関わらず予防接種を受けてよいとされています。ワクチンを避け続けることで感染症にかかるリスクのほうがむしろ心配ですので、気になる場合はかかりつけ医に相談しながら、通常のスケジュールで接種を進めましょう。ただし、これまでに15分以上続くような長い発作(遷延性発作)を経験している場合は、接種前に一度専門医に相談しておくと安心です。また、実際の診療の現場では、初回の発作後しばらく(数週間程度)は主治医の判断で経過観察の期間を置くことをすすめられる場合もありますので、最終的な接種のタイミングはかかりつけ医の指示に従ってください。
再発率と今後の見通し
熱性けいれんを一度経験した子どもの、その後の再発率はおよそ3割程度とされています。特に発症年齢が1歳未満であること、発熱から発作までの時間が短いこと、両親やきょうだいに熱性けいれんの既往があることなどが、再発しやすい因子として知られています。ただし、単純型熱性けいれんを繰り返したとしても、その後の知的発達に影響が残ることは基本的になく、多くの子どもは年齢とともに発作を起こさなくなっていきます。まずは「命に関わることはまれで、多くは自然に良くなっていく発作である」と知っておくだけでも、いざというときの落ち着いた対応につながります。次に熱を出したときも、今回学んだ5つの対処法を思い出しながら、落ち着いて時間を計り、様子を観察することを心がけてみてください。
よくある誤解——解熱剤で予防できる?てんかんとの違いは?
解熱剤を使えばけいれんを予防できる?
「熱が上がりきる前に解熱剤を使えばけいれんを防げるのでは」と考える方は多いのですが、アセトアミノフェンなどの解熱剤を使用しても、熱性けいれんの発症そのものを予防できるという確実な根拠はないとされています。解熱剤は、あくまで発熱によるお子さんのつらさを和らげるために使うものであり、けいれん予防を目的として無理に使う必要はありません。逆に、けいれんが起きたからといって解熱剤の使い方が悪かったわけではないので、ご自身を責める必要はまったくありません。
熱性けいれんとてんかんはどう違う?
熱性けいれんは「発熱に伴って」起こる発作であるのに対し、てんかんは発熱がなくても発作を繰り返す慢性の脳の病気で、両者は区別されます。単純型熱性けいれんを何度か経験しても、その多くはその後てんかんに移行することなく、年齢とともに発作そのものが起こらなくなっていきます。ただし、複雑型熱性けいれんを繰り返す場合や、発達の遅れ、てんかんの家族歴があるなど一部のケースでは、その後の経過をより注意深く診ていく必要があるため、心配な場合は小児神経を専門とする医師に相談すると安心です。
まわりの大人の心のケアも大切に
初めて我が子のけいれんを目の当たりにした親御さんの多くが、「自分のせいで熱に気づくのが遅れたのでは」「何か対応を間違えたのでは」と自分を責めてしまいます。しかし熱性けいれんは、体質や年齢、発熱のタイミングが重なって起こるものであり、家庭での見守り方や対応が原因で起こるものではありません。発作中は数分がとても長く感じられ、強い恐怖を覚えるのは自然な反応です。可能であれば、パートナーや家族とあらかじめ「けいれんが起きたらどう動くか」を話し合っておいたり、この記事の対処法を家の目につく場所にメモしておいたりすると、いざというときに落ち着いて対応しやすくなります。受診の際には、対応してくれた医師にそのときの不安な気持ちを話してみるのも、心の負担を軽くする一つの方法です。
よくある質問
きょうだいも熱性けいれんを起こしやすいですか?
両親やきょうだいに熱性けいれんの既往がある場合、体質として発症しやすい傾向があるとされています。とはいえ、必ず起こるわけではなく、あくまで確率が少し高くなるという程度です。上の子が経験しているからといって過度に心配しすぎず、発熱時にはいつも通り体調を見守り、対処法を家族で共有しておく、という心構えで十分です。
保育園や登園・登校の目安は?
熱性けいれん自体は発熱に伴う一時的な症状であり、登園の可否は基本的にその原因となっている感染症(発熱の原因疾患)の登園基準に従います。けいれん後にぐったりが続く、食欲がない、機嫌が悪いなど普段と違う様子があれば、体調が十分に回復するまで登園は控え、心配な場合はかかりつけ医に相談してから判断すると安心です。






プールや入浴はいつから再開してよいですか?
けいれん後の入浴は、体調が落ち着き、発熱がおさまってから再開するのが基本です。特に初回の発作の直後は、体力の消耗や再度の発熱リスクも考え、シャワーで済ませるなど無理のない範囲にとどめ、詳しい再開時期については受診時に相談しておくとよいでしょう。
まとめ
赤ちゃんの熱性けいれんは、目の当たりにすると誰もが動揺する出来事ですが、①安全な場所に横向きに寝かせる、②時間を計る、③口に物を入れない、④様子を観察する、⑤発作後の呼吸・顔色を確認する、という基本を知っておくだけで、落ち着いて対応しやすくなります。5分以上発作が続く場合や、意識が戻らない・呼吸が苦しそうといった場合は、迷わず救急車を呼んでください。初めての発作のときは、たとえ短時間でおさまったとしても、原因検索や今後の見通しの説明のために小児科を受診することをおすすめします。お子さんの状態や既往によって必要な対応は異なりますので、最終的な判断は必ず主治医・かかりつけ医にご相談ください。

