「関節リウマチと診断されたけど、心臓や血管への影響は心配じゃない?」「リウマチの薬が心臓に悪いと聞いたのだけど……」——そんな疑問を持つ患者さんはとても多いです。実は、関節リウマチ(RA)の患者さんは一般の方と比べて心血管疾患(心筋梗塞・脳卒中・動脈硬化)のリスクが約1.3〜1.5倍高いことが、世界中の大規模研究で繰り返し報告されています。
それだけでなく、近年よく使われるJAK阻害薬には一部の患者さんで心血管リスクが上がるというデータもあり、治療薬の選択にも影響しています。この記事ではリウマチと心血管疾患の関係のメカニズムから、日常生活でできる予防策まで、リウマチ専攻医の立場からわかりやすく解説します。
関節リウマチで心血管疾患リスクが上がる理由
「リウマチは関節の病気なのに、なぜ心臓や血管に影響するの?」と不思議に思う方も多いでしょう。その答えは、慢性的な全身性炎症にあります。
慢性炎症が血管を直接傷つける
関節リウマチの本体は「免疫が誤作動して関節を攻撃し続ける慢性炎症」です。炎症は関節だけにとどまらず、全身の血管壁にもダメージを与えます。
血管の内側(内皮細胞)が炎症によって傷つくと、動脈硬化(アテローム性動脈硬化)が進みやすくなります。コレステロールが血管壁に溜まり、プラーク(粥腫)ができ、それが破れると急性心筋梗塞や脳卒中を引き起こします。
炎症の指標であるCRPや炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6など)が高い状態が続くと、血小板が活性化されて血液が固まりやすくなり、血栓リスクも上がります。
患者さん


RAに合併しやすい危険因子
RAの患者さんには、心血管疾患の伝統的な危険因子(高血圧・脂質異常症・糖尿病)も合併しやすい傾向があります。
- 高血圧:ステロイド薬の長期使用が血圧を上げる。NSAIDs(消炎鎮痛剤)も血圧上昇の原因になりうる。
- 脂質異常症:炎症自体がHDL(善玉)コレステロールを下げ、LDL(悪玉)を変質させる。ステロイドも中性脂肪・LDLを上げやすい。
- インスリン抵抗性・糖尿病:ステロイドは血糖を上げやすく、ステロイド性糖尿病のリスクがある。
- 身体活動の低下:痛みや疲れで運動が減り、肥満・メタボリックシンドロームにつながりやすい。
- 喫煙:RAの発症リスクを上げると同時に、心血管リスクも大きく高める。
リスクの大きさ——具体的なデータ
世界中の研究データをまとめると、関節リウマチ患者の心血管疾患リスクは以下のような数字になっています。
| 疾患・イベント | リスクの目安 |
|---|---|
| 心血管疾患全体(心筋梗塞・脳卒中など) | 一般人の約1.3〜1.5倍 |
| 急性冠症候群(心筋梗塞・不安定狭心症) | 心血管死の9割以上を占める |
| 心不全 | 約1.5〜2倍のリスク上昇 |
| 脳卒中 | 1.2〜1.5倍のリスク上昇 |
参考として、全身性エリテマトーデス(SLE)は約3倍、35〜44歳の若年女性SLE患者では一般女性の約50倍と、膠原病の中でもSLEは特にリスクが高くなっています。RAはそれよりは低いですが、「一般の方と同じリスク」とはいえないレベルです。
疾患活動性が高いほどリスクが高い
重要なのは、RAの炎症がよくコントロールされているほど(疾患活動性が低いほど)心血管リスクも下がるという点です。つまり、寛解を目指した積極的な治療が心臓・血管を守ることにも直結します。
JAK阻害薬と心血管リスク——知っておきたい最新情報
近年広く使われるようになったJAK阻害薬(ヤヌスキナーゼ阻害薬)には、心血管イベントに関して注意が必要なデータが出ています。
ORAL Surveillance試験の衝撃
2021年に発表されたORAL Surveillance試験(大規模ランダム化比較試験)では、トファシチニブ(ゼルヤンツ)を使用した患者群で、TNF阻害薬群と比べて心血管イベント(心筋梗塞・脳卒中など)と血栓症のリスクが有意に高いことが示されました。
この試験の対象は「50歳以上で心血管リスク因子を持つRA患者」と条件が絞られていましたが、欧州医薬品庁(EMA)と日本リウマチ学会はこの結果を受けて安全性に関する勧告を出しました。
JAK阻害薬使用の注意が必要な方
日本リウマチ学会の「JAK阻害薬使用の手引き(2025年改訂)」などでは、以下の方にJAK阻害薬を使う場合は特に慎重に心血管リスクを評価することが推奨されています。
- 65歳以上の高齢者
- 現喫煙者・長期喫煙歴がある方
- 心血管疾患の既往(心筋梗塞・脳卒中など)がある方
- 深部静脈血栓症・肺塞栓症の既往がある方
- BMI 30以上の肥満
- 抗リン脂質抗体症候群の合併
これらのリスク因子を複数持つ場合は、TNF阻害薬など他の生物学的製剤が優先される場合があります。担当医とリスクとベネフィットをよく相談してください。






心血管リスクを下げるために——患者さんができること
①定期的なスクリーニング検査を受ける
欧州リウマチ学会(EULAR)のガイドラインでは、RA患者は少なくとも5年に1回は心血管リスク評価を行うことが推奨されています。具体的には以下の検査が重要です。
- 血圧測定:毎回の外来受診時に測定
- 脂質検査(LDL・HDL・中性脂肪):年1回程度
- 血糖・HbA1c:ステロイド使用中は特に重要
- 体重・BMI:毎回計測
- 心電図・心エコー:症状があれば適宜
②生活習慣を整える
関節の痛みがあっても、できる範囲での生活習慣改善が大切です。
- 禁煙:喫煙はRAの悪化と心血管リスクの両方を高める最大の危険因子。
- 適度な運動:関節に負担をかけない水中ウォーキング・ストレッチ・ヨガなど。週150分の中程度の有酸素運動が目標。
- 食事:地中海食(野菜・魚・オリーブオイル中心)が心血管保護効果ありとされる。塩分6g以下/日を心がける。
- 体重管理:BMI 22〜25を目安に。肥満は炎症を悪化させ心血管リスクも上げる。
- 飲酒:過度の飲酒は控える(日本酒換算1合/日以下)。
③疾患活動性を積極的にコントロールする
前述のとおり、RAの炎症がよくコントロールされていると心血管リスクも低下します。「少し痛くても我慢する」のではなく、寛解・低疾患活動性を目標に治療を続けることが長期的な心臓・血管の保護にもなります。
治療薬の中でも、メトトレキサート(MTX)はRAの心血管保護効果が示されている薬の一つです(炎症抑制を通じてリスクを下げると考えられています)。
④高血圧・脂質異常症・糖尿病はしっかり治療する
RA外来だけでなく、内科やかかりつけ医と連携して、高血圧・脂質異常症・糖尿病の管理も並行して行いましょう。ステロイドを長期使用している方は特に血圧・血糖・コレステロールの管理が重要です。
こんな症状は早めに受診を——心血管異常のサイン
以下の症状が出たときは、速やかに医療機関(場合によっては救急)を受診してください。
- 胸の痛み・圧迫感・絞られる感じ(安静時でも続く場合は緊急)
- 突然の息切れ・動悸(階段を上がる程度で著しく苦しい場合)
- 片側の手足の脱力・しびれ・ろれつが回らない(脳卒中の可能性)
- 片側の足のむくみ・赤み・熱感・痛み(深部静脈血栓症の可能性)
- 突然の激しい頭痛・視力障害
RAの治療中は感染症などで症状が出にくいことがあります。少しでも気になる症状があれば、「これはリウマチの症状じゃないかも」と考え、循環器内科や救急へ相談することをためらわないでください。






まとめ
- 関節リウマチの患者さんは、慢性炎症・ステロイド・合併症などにより心血管疾患リスクが一般の約1.3〜1.5倍高い。
- JAK阻害薬は一部の患者(高齢・喫煙・既往歴あり)で心血管リスクが上がる可能性があり、選択時に担当医との相談が必要。
- 定期的な血圧・脂質・血糖チェックと、禁煙・適度な運動・体重管理などの生活習慣改善が心血管保護に有効。
- 最も大切なのは疾患活動性をしっかりコントロールすること——炎症を抑えることが関節だけでなく心臓・血管も守る。
- 胸痛・突然の片麻痺・著しい息切れなど心血管のサインは速やかに受診を。
個々の患者さんで危険因子や治療内容が異なります。この記事はあくまで一般的な情報です。心血管リスクの評価や治療薬の変更については、必ず主治医・かかりつけ医にご相談ください。

