患者さん


膠原病・リウマチ患者さんが日常生活で最もつらいと感じる症状のひとつが「疲労(fatigue)」です。倦怠感、だるさ、やる気が出ない、休んでも回復しない…こうした訴えは、炎症の強さとは必ずしも一致せず、薬で炎症をコントロールしても残ることがあります。
この記事では、膠原病・リウマチにおける疲労の特徴・原因・評価・対策について解説します。
膠原病・リウマチにおける疲労の特徴
ここでいう「疲労」は、単なる運動後の疲れとは異なります。医学的には、休息をとっても十分に回復しない持続的な消耗感・エネルギー喪失感として定義されます。
頻度はどのくらい?
疲労は膠原病・リウマチ患者さんにきわめて多くみられます。
- 関節リウマチ(RA):患者さんの約70〜80%が疲労を経験するとされ、痛みと並んで最も多い症状です
- 全身性エリテマトーデス(SLE):約50〜80%に中等度以上の疲労がみられます
- シェーグレン症候群:疲労は最も頻度の高い症状のひとつで、患者さんの約65〜70%が訴えます
- 全身性強皮症(SSc):約50〜80%に疲労がみられます(研究によって幅があります)
- 線維筋痛症:疲労・倦怠感は中核症状のひとつです






疲労の種類
| 種類 | 特徴 |
|---|---|
| 炎症性疲労 | 疾患活動性が高いときに強くなる。CRPや赤沈上昇と相関しやすい |
| 非炎症性疲労 | 疾患活動性が落ち着いていても持続する。睡眠・心理・行動因子が関与 |
| 薬剤性疲労 | ステロイド、メトトレキサート、一部の生物学的製剤などが原因のことがある |
疲労の主な原因
膠原病・リウマチの疲労は、複数の要因が絡み合って生じることがほとんどです。
① 炎症サイトカイン
疾患活動性が高い時期には、TNF-α、IL-6、IL-1βなどの炎症性サイトカインが大量に放出されます。これらのサイトカインは脳に直接・間接的に作用し、倦怠感・気力低下・認知機能の低下(いわゆる「ブレインフォグ」)を引き起こします。
関節リウマチでTNF阻害薬やIL-6阻害薬(トシリズマブ)を使用すると炎症だけでなく疲労も改善することが複数の臨床試験で示されています。
② 貧血
慢性炎症は、慢性疾患の貧血(ACD: Anemia of Chronic Disease)を引き起こします。ヘプシジンというホルモンが鉄の利用を阻害することで、鉄剤を飲んでも改善しにくい貧血が生じます。
また、メトトレキサートは葉酸代謝を拮抗するため、巨赤芽球性貧血(骨髄抑制)の原因になることがあります。葉酸を一緒に補充することで予防できます。
③ 睡眠障害
関節の痛みや皮膚症状によって夜間の睡眠が妨げられ、昼間の疲労感につながります。線維筋痛症を合併しているケースでは特に睡眠の質が低下しやすく、疲労が悪化します。
④ 痛み
慢性的な痛みは体力・精神力を消耗させ、疲労と密接に関連しています。痛みによるストレスが疲労を増強させます。
⑤ うつ・不安
膠原病・リウマチ患者さんはうつ病・不安障害の合併率が一般人口より高く、これが疲労を増悪させます。炎症と精神症状は双方向の関係にあり(サイトカインがうつを誘発し、うつがさらに炎症を増悪)、悪循環になることがあります。
⑥ 筋力低下・廃用
痛みや活動制限によって運動量が減ると筋力が低下し、ちょっとした動作でもすぐ疲れてしまうという悪循環に陥りやすくなります。
⑦ 甲状腺機能低下症・副腎機能抑制
膠原病に合併しやすい甲状腺炎(橋本病など)による甲状腺機能低下症は、疲労・倦怠感の主要な原因となります。また、長期のステロイド投与によって副腎機能が抑制されている場合も疲労の原因になりえます。






疲労の評価方法
FACIT-Fatigue スケール
FACIT-Fatigue(Functional Assessment of Chronic Illness Therapy – Fatigue)は、13項目の質問からなる疲労評価スケールです。0〜52点で評価し、スコアが低いほど疲労が強いことを示します(一般的に30点以下が重度疲労の目安)。関節リウマチの臨床試験でも広く使用されています。
VAS(視覚的アナログスケール)
0〜100mmのスケールで疲労の強さを自己評価する方法です。簡便で外来でも使いやすく、経時的な変化をモニタリングするのに便利です。
SF-36 活力サブスケール
QOL評価ツールSF-36のなかの「活力(Vitality)」サブスケールも、膠原病患者の疲労評価に用いられます。
疲労への対策
1. 疾患活動性のコントロール
疲労の最も重要な要因のひとつが炎症です。適切な薬物療法で疾患活動性をコントロールすることが、疲労改善の第一歩です。
- RAのTNF阻害薬・IL-6阻害薬:炎症を強力に抑えるとともに、疲労スコアの有意な改善が複数の臨床試験で確認されています
- JAK阻害薬:バリシチニブ、ウパダシチニブなどでも疲労スコアの改善が臨床試験で報告されています
- SLEのベリムマブ:BLISS試験でFACIT-Fatigueスコアの改善が示されています
2. 運動療法
「疲れているから安静に」は必ずしも正解ではありません。適切な有酸素運動・筋力トレーニングは、膠原病・リウマチ患者の疲労を改善することがランダム化比較試験でも示されています。
- ウォーキング、水中運動(アクアエクササイズ)、サイクリングなどの有酸素運動が推奨されます
- 週2〜3回、1回20〜30分程度から始めるのが目安です
- 関節への負担が少ない水中運動は特にRA患者に適しています
- 急性増悪中は運動を控え、寛解期・安定期に開始します






3. 睡眠の改善
- 就寝・起床時間を一定にする(睡眠リズムの確立)
- 痛みのコントロールを適切に行い、夜間の痛みで目が覚めないようにする
- カフェインは午後以降控える
- 就寝前のスマートフォン・PCの使用を減らす
- 睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は検査を受ける
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※効果には個人差があり、疾患そのものの治療を目的とするものではありません。気になる症状は主治医にご相談ください。
4. 認知行動療法(CBT)
慢性疾患における疲労に対する認知行動療法(CBT)は、ランダム化比較試験でその有効性が示されています(特にRAに対するエビデンスが蓄積されています)。疲労に関する否定的な思考パターンや行動パターン(活動を避ける→体力が落ちる→さらに疲れる、という悪循環)を変えることを目標とします。
5. ペーシング(エネルギー管理)
ペーシングとは、1日の活動量を自分のエネルギー量に合わせて配分する戦略です。
- 活動と休息のバランスをとる(無理してまとめてやろうとしない)
- 調子の良い日に活動しすぎて翌日以降に”クラッシュ”しない
- 優先順位をつけて「しなくてよいこと」を削る
- 作業療法士によるADL指導も有効です
6. 貧血・甲状腺・うつの治療
- 鉄欠乏性貧血:鉄補充(経口または静脈内)
- 甲状腺機能低下症:甲状腺ホルモン補充療法
- MTX使用中の葉酸補充:巨赤芽球性貧血・骨髄抑制の予防
- うつ病・不安障害:精神科・心療内科への紹介、薬物療法や心理療法
7. 栄養・生活習慣
バランスのよい食事、十分な水分摂取、禁煙も疲労改善の基本です。喫煙は炎症を助長し、疾患活動性・疲労を悪化させることがわかっています。
疾患別の注意点
関節リウマチ(RA)の疲労
RAにおける疲労は疾患活動性とある程度相関しますが、疾患が寛解状態でも疲労が残ることは珍しくありません。RA患者の疲労にはうつ・睡眠障害・線維筋痛症の合併も大きく関与しています。生物学的製剤やJAK阻害薬は疲労スコアを有意に改善することが複数の臨床試験で示されています。
SLEの疲労
SLEの疲労は特に難治であることが知られています。疾患活動性を反映する部分もありますが、それだけでは説明できない疲労が多く、線維筋痛症の合併、心理的ストレス、ビタミンD欠乏、貧血、甲状腺疾患なども関与します。ヒドロキシクロロキン(HCQ)は抗マラリア薬でSLEの標準治療薬ですが、疲労改善効果については観察研究・専門家意見レベルの報告があります。
シェーグレン症候群の疲労
シェーグレン症候群の疲労は最もQOLを低下させる症状のひとつですが、有効な薬物療法に乏しいのが現状です。認知行動療法、運動療法、睡眠改善の多面的アプローチが勧められます。






まとめ
- 膠原病・リウマチの疲労は非常に多くの患者さんに生じ、QOLに大きく影響します
- 原因は炎症・貧血・睡眠障害・うつ・筋力低下・薬剤など多因子です
- 疾患活動性のコントロール+運動・睡眠・心理的アプローチの組み合わせが効果的です
- 「疲れているだけ」と思わず、主治医に積極的に伝えて原因を探ることが大切です

