「ステロイドを飲んでいたら血圧が上がってきた」「NSAIDsが血圧に影響すると言われた」——リウマチ・膠原病の患者さんからよく聞かれる疑問です。
この記事では、リウマチ内科専攻医がステロイドやNSAIDsと血圧の関係、疾患ごとの血圧管理のポイントをわかりやすく解説します。
患者さん


高血圧の診断基準(JSH2025)
日本高血圧学会は2025年に最新ガイドライン(JSH2025)を発刊しました。高血圧は以下の基準で診断されます。
| 分類 | 診察室血圧 |
|---|---|
| 正常血圧 | 120/80 mmHg 未満 |
| 正常高値血圧 | 120〜129 / 80 mmHg 未満 |
| 高値血圧 | 130〜139 / 80〜89 mmHg |
| Ⅰ度高血圧 | 140〜159 / 90〜99 mmHg |
| Ⅱ度高血圧 | 160〜179 / 100〜109 mmHg |
| Ⅲ度高血圧 | ≥180 / ≥110 mmHg |
家庭血圧では 135/85 mmHg 以上が高血圧の基準です(診察室より5mmHg低い)。
リウマチ・膠原病患者に高血圧が多い理由
リウマチ・膠原病の患者さんは、一般の方に比べて高血圧を合併しやすい傾向があります。主な原因は以下の通りです。
| 原因 | 主な疾患・状況 |
|---|---|
| ステロイドの使用 | ほぼすべての膠原病 |
| NSAIDs・COX-2阻害薬の使用 | 関節リウマチ、強直性脊椎炎など |
| 慢性炎症による血管障害 | 関節リウマチ(RA) |
| 腎炎・腎機能障害 | SLE(狼瘡腎炎) |
| 腎動脈狭窄 | 高安動脈炎 |
| 腎クリーゼ | 全身性強皮症(SSc) |
ステロイドと高血圧
グルココルチコイド(プレドニゾロンなど)は以下の機序で血圧を上昇させます。
| 機序 | 内容 |
|---|---|
| Na・水貯留 | 腎尿細管でのNa再吸収増加→循環血液量増加 |
| RAAS活性化 | レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の活性化 |
| 交感神経活性化 | 心拍数・末梢血管抵抗の増大 |
| 体重増加 | 肥満による血圧上昇 |
グルココルチコイド長期使用者の高血圧合併率は約20〜30%以上(用量・使用期間依存)。プレドニゾロン7.5mg/日以上(中等量以上)でリスクが高まります。
第一選択:Ca拮抗薬(アムロジピンなど)
Na貯留・浮腫が顕著な場合:サイアザイド系利尿薬の併用も有効
ACE阻害薬・ARBも使用可能
NSAIDsと血圧
NSAIDs(イブプロフェン、ロキソプロフェンなど)やCOX-2阻害薬(セレコキシブ)は、プロスタグランジン産生を抑制することで血圧を上昇させます。
| 作用 | 内容 |
|---|---|
| Na・水貯留 | プロスタグランジン抑制→腎でのNa排泄低下 |
| 降圧薬効果の減弱 | ACE阻害薬・ARB・利尿薬・β遮断薬の降圧効果が低下 |
| 血圧上昇幅 | 平均2〜5 mmHg(既存の高血圧患者ではさらに大きい場合あり) |
特にACE阻害薬・ARB・利尿薬の降圧効果が著明に減弱します(「triple whammy(三重苦)」としてACE/ARB+利尿薬+NSAIDsの組み合わせは腎機能悪化リスクも高い)。セレコキシブは他のNSAIDsより血圧への影響がやや小さいとされますが、心血管リスクが高い患者では慎重な血圧モニタリングが必要です。
疾患別の血圧管理
SLE(全身性エリテマトーデス)
SLE患者の40〜75%に高血圧を合併します。原因は狼瘡腎炎(ループス腎炎)による二次性高血圧のほか、ステロイド使用・慢性炎症・抗リン脂質抗体・動脈硬化促進など多因子があります。
ACE阻害薬・ARBが腎保護目的で推奨されます(タンパク尿の減少効果あり)。
強皮症腎クリーゼ(Scleroderma Renal Crisis: SRC)
全身性強皮症(SSc)の5〜10%に発症。突然の重篤な高血圧(多くは150〜160 mmHg以上)と急速進行性腎機能障害が特徴。ただし約10%は正常血圧でも発症するため注意。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| リスク因子 | びまん皮膚硬化型(dcSSc)、抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性、プレドニゾロン≥15mg/日 |
| 第一選択治療薬 | ACE阻害薬(カプトプリルなど)※必須 |
| 血圧目標 | 72時間以内に120/70 mmHg程度まで段階的に降圧(急激な降圧は腎虚血を悪化させるため禁忌) |
| 注意 | ACE阻害薬の予防投与(SRC発症前)は逆に予後を悪化させる可能性があり、推奨されない |
高安動脈炎(腎血管性高血圧)
腎動脈狭窄による腎血管性高血圧を生じます。健側(病変のない腕)での血圧測定が重要です。
関節リウマチ(RA)
RA患者では慢性炎症(TNF-α・IL-6)による血管内皮障害のため、高血圧合併が一般人口より多い傾向があります(一部の研究では1.3〜2倍)。MTX・生物学的製剤による炎症制御が間接的に血圧改善につながる可能性があります。
シクロスポリンと高血圧
シクロスポリン(ループス腎炎・強皮症などに使用)は高血圧・腎毒性を引き起こします。降圧薬にはCa拮抗薬(特にアムロジピン)が推奨されますが、ジルチアゼム・ベラパミルはシクロスポリン血中濃度を上昇させるため避けます(CYP3A4阻害)。
まとめ
| 疾患・状況 | 血圧上昇の原因 | 推奨降圧薬 |
|---|---|---|
| ステロイド性高血圧 | Na貯留・RAAS活性化 | Ca拮抗薬(第一選択) |
| SLE(狼瘡腎炎) | 腎機能障害 | ACE阻害薬・ARB |
| 強皮症腎クリーゼ | 腎血管攣縮 | ACE阻害薬(必須) |
| 高安動脈炎(腎血管性) | 腎動脈狭窄 | 両側狭窄ではACE/ARB禁忌 |
| シクロスポリン使用 | 腎血管収縮 | アムロジピン |






JSH2025では全年齢で130/80 mmHg未満が降圧目標となりました。リウマチ・膠原病の治療を続けながら、血圧管理にも気をつけましょう。

