皮膚がかたくなる、レイノー現象(寒さで指が白くなる)、息切れ…これらは全身性強皮症(Systemic Sclerosis: SSc)の症状かもしれません。
この記事では、リウマチ内科専攻医が全身性強皮症についてわかりやすく解説します。
患者さん寒いと手指が白くなって、最近皮膚もかたくなってきた気がします。何かの病気でしょうか?



レイノー現象と皮膚の硬化ですね。全身性強皮症という病気の可能性があります。詳しく検査しましょう。
目次
全身性強皮症とは?
全身性強皮症は、皮膚や内臓が線維化(かたくなる)する自己免疫疾患です。血管障害・免疫異常・線維化が同時に進行します。指定難病に指定されており、日本では人口10万人あたり約10〜15人程度の患者さんがいるとされています(受給者証所持者は約2.8万人)。
- 好発年齢: 30〜50代
- 男女比: 女性に圧倒的に多い(女性:男性 = 約7〜9:1)
病型分類
全身性強皮症は、皮膚硬化の範囲によって2つに分類されます。
| 分類 | 皮膚硬化の範囲 | 特徴的な自己抗体 | 主な合併症 |
|---|---|---|---|
| 限局型(lcSSc) | 肘・膝より末梢(顔面含む) | 抗セントロメア抗体 | PAH(肺動脈性肺高血圧症) |
| びまん型(dcSSc) | 肘・膝より中枢にも広がる | 抗トポイソメラーゼI抗体(Scl-70)、抗RNAポリメラーゼIII抗体 | ILD(間質性肺疾患)、腎クリーゼ |
症状
レイノー現象
最初に現れることが多い症状です。寒さや精神的ストレスで、指が白→紫→赤と変化します(三相性変化)。
皮膚症状
- 浮腫期: 手指がむくみ、ソーセージ状になる
- 硬化期: 皮膚が厚くかたくなる(顔面:仮面様顔貌、口周囲のしわ)
- 萎縮期: 皮膚が薄くなる
肺病変
- 間質性肺疾患(ILD): 特にびまん型に多い。乾性咳嗽・労作時息切れ
- 肺動脈性肺高血圧症(PAH): 特に限局型(抗セントロメア抗体陽性)に多い
消化管症状
- 食道蠕動運動低下→逆流性食道炎
- 小腸病変→腹部膨満・下痢・便秘・吸収障害
手指潰瘍
レイノー現象の繰り返しによる指先の潰瘍です。治りにくく、感染リスクがあります。
強皮症腎クリーゼ(SRC)
- 急激な血圧上昇+腎機能障害
- びまん型・発症早期(5年以内)に多い
- ステロイド大量使用が誘因になることがある
- ACE阻害薬(カプトプリル等)が第一選択——早期からの積極的な血圧コントロールで腎機能・生命予後が改善する



強皮症って色々な臓器が影響を受けるんですね…どんな自己抗体があるんですか?



自己抗体の種類によって、どの臓器に気をつけるべきかが変わるんです。とても重要な情報なので、血液検査でしっかり確認します。
自己抗体と合併症
| 自己抗体 | 病型 | 関連する合併症・特徴 |
|---|---|---|
| 抗セントロメア抗体 | 限局型(lcSSc) | PAH、CREST症候群 |
| 抗トポイソメラーゼI抗体(Scl-70) | びまん型(dcSSc) | ILD |
| 抗RNAポリメラーゼIII抗体 | びまん型(dcSSc) | 腎クリーゼ、皮膚硬化が急速進行。発症前後に悪性腫瘍との時間的関連が報告されており、悪性腫瘍スクリーニングが推奨される |
診断
診断には2013年ACR/EULAR分類基準が参考として用いられます(研究・診療参考目的の分類基準であり、診断は総合的な臨床判断が必要です)。
主な評価項目:
- 両手指の手関節より近位の皮膚肥厚(最高スコア)
- 指の皮膚肥厚
- 指先病変(陥凹瘢痕・指尖部潰瘍)
- 毛細血管拡張
- 異常な爪郭毛細血管(爪郭鏡所見)
- 肺動脈性肺高血圧症 / 間質性肺疾患
- レイノー現象
- SSc関連自己抗体陽性
治療
全身性強皮症には根治療法はなく、臓器合併症ごとに治療を行います。
レイノー現象・手指潰瘍
- カルシウム拮抗薬(ニフェジピン等): レイノー現象の第一選択
- プロスタサイクリン製剤(アルプロスタジル等): 重症例・手指潰瘍に使用
- ボセンタン(トラクリア®): SSc患者における手指潰瘍の新規発現予防に適応あり(既存潰瘍の治癒を促す薬ではなく、新たな潰瘍の発生を減らす目的で使用)
間質性肺疾患(ILD)
- ニンテダニブ(オフェブ®): SSc-ILD(全身性強皮症に伴う間質性肺疾患)として日本で承認済み。SENSCIS試験に基づき、肺機能(FVC)の低下速度を有意に抑制することが示されている(肺機能を改善させる薬ではなく、進行を遅らせる薬)
- シクロホスファミド(エンドキサン®): SSc-ILDに対して使用される
- ミコフェノール酸モフェチル(MMF、セルセプト®): ILDへの適応外使用として用いられることがある
肺動脈性肺高血圧症(PAH)
- エンドセリン受容体拮抗薬: ボセンタン(トラクリア®)、アンブリセンタン(ヴォリブリス®)、マシテンタン(オプスミット®)
- PDE5阻害薬: シルデナフィル(レバチオ®)、タダラフィル(アドシルカ®)
- プロスタサイクリン系: エポプロステノール、イロプロスト、ベラプロスト
腎クリーゼ(SRC)
- ACE阻害薬が第一選択(カプトプリル等)
- 早期からの積極的な血圧コントロールで腎機能・生命予後が改善する
- ステロイド投与中の患者は特に血圧モニタリングが重要
皮膚硬化・全般的治療
- MTX(適応外使用): 皮膚硬化に用いられることがある
- MMF(適応外使用): 皮膚・肺病変に
- ステロイド: 筋炎合併時など一部に用いるが、腎クリーゼの誘因となりうるため注意



治療薬がたくさんあるんですね。副作用は大丈夫ですか?



臓器ごとに薬が違うので一見複雑ですが、主治医と相談しながら一つずつ対処していきます。定期的な検査でしっかり管理していきましょう。
生活上の注意点
- 保温: レイノー現象対策に手袋・防寒対策を徹底する
- 禁煙: 喫煙は血管収縮・線維化を促進するため必須
- 口腔ケア: 開口制限があると歯科治療が困難になるため、口の体操を継続する
- 逆流性食道炎対策: 就寝時に頭部を挙上し、食後すぐに横にならない
- 血圧自己管理: 腎クリーゼの早期発見のため、自宅での定期的な血圧測定を習慣にする
まとめ
- 全身性強皮症は皮膚・内臓の線維化と血管障害が特徴の指定難病
- 限局型(lcSSc)とびまん型(dcSSc)で、合併症リスクが異なる
- 自己抗体(抗セントロメア・抗Scl-70・抗RNAポリメラーゼIII)が病型・予後の予測に重要
- 臓器ごとに治療薬が異なる:ILD→ニンテダニブ・シクロホスファミド / PAH→エンドセリン拮抗薬・PDE5阻害薬 / 腎クリーゼ→ACE阻害薬
- ニンテダニブはSSc-ILDの進行を抑制する薬として日本でも承認済み
- ボセンタンはSSc患者の手指潰瘍の新規発現予防に適応あり

