線維筋痛症とは?
線維筋痛症(せんいきんつうしょう、Fibromyalgia)は、全身に広がる慢性的な痛みを主な症状とする疾患です。痛みの原因となる関節の炎症や組織の損傷が見つからないにもかかわらず、強い痛みが続くという特徴があります。
この疾患は「中枢感作(ちゅうすうかんさ)」というメカニズムによって引き起こされると考えられています。中枢感作とは、脳や脊髄などの中枢神経が痛みに対して過敏になった状態のことです。本来であれば痛みとして感じないような刺激でも強い痛みとして認識されてしまったり、もともとの痛みが実際よりもずっと強く増幅されて伝わったりします。つまり、「痛みを感じるシステム自体の異常」によって生じる疾患です。
有病率は一般人口の2〜4%とされており(報告によって幅があります)、決して珍しい病気ではありません。女性に多く、発症年齢は20〜55歳に多いとされています。
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子育て内科医線維筋痛症の症状
主症状:全身の慢性疼痛
最も特徴的な症状は、3ヶ月以上続く全身の広範な痛みです。首・肩・背中・腰・四肢など、体のあちこちが痛み、「どこが痛いというよりも全身が痛い」と表現される方が多くいます。痛みの性質は「ズキズキ」「ジンジン」「灼けるような感じ」などさまざまで、日によって強さや場所が変化することもあります。
倦怠感・疲労感
強い倦怠感や疲れやすさも多くの患者さんが訴える症状です。十分に休んでも疲れが取れず、日常生活や仕事に支障をきたすことがあります。
睡眠障害
眠りが浅い、夜中に何度も目が覚める、朝起きても疲れが残っているといった睡眠の問題も高頻度に認められます。睡眠障害は痛みや倦怠感をさらに悪化させる悪循環を生みやすいため、治療において重要なポイントの一つです。
認知症状(フィブロフォグ)
「フィブロフォグ(Fibro Fog)」と呼ばれる認知機能の低下も線維筋痛症の特徴的な症状の一つです。集中力の低下、物忘れ、頭が「ぼんやりした感じ」などが現れ、仕事や日常生活のパフォーマンスが下がってしまうことがあります。
合併しやすい症状
線維筋痛症では、以下のような症状や疾患を合併することが多いことも知られています。
- 緊張型頭痛・片頭痛
- 過敏性腸症候群(腹痛・下痢・便秘を繰り返す)
- 過活動膀胱・膀胱痛症候群
- 顎関節症
- うつ病・不安障害
線維筋痛症の診断基準
線維筋痛症の診断には、米国リウマチ学会(ACR)が策定した診断基準が広く用いられています。2016年に改訂された最新基準では、以下の2つのスコアを組み合わせて診断します。
WPIスコア(Widespread Pain Index:広範囲疼痛指数)
過去1週間に痛みを感じた部位の数を数えます。頸部・肩・上腕・前腕・臀部・大腿・下腿・胸部・腹部・背部・腰部など、全19部位から何箇所に痛みがあるかを評価します。
SSスコア(Symptom Severity Score:症状重症度スコア)
疲労感・睡眠障害・認知症状の重症度(各0〜3点)と、頭痛・腹部症状・うつ状態などの有無(0〜3点)を合計した症状重症度スコアです。
これらのスコアの組み合わせによって診断が行われますが、診断はあくまで専門医が行うものです。同時に症状を説明しうる他の疾患がないことの確認(除外診断)も非常に重要です。関節リウマチ・全身性エリテマトーデス・甲状腺機能低下症・多発性筋炎など、血液検査や画像で異常が出る疾患をまず除外したうえで診断を進めていきます。リウマチ内科や整形外科、ペインクリニックなど専門医への受診が勧められます。
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子育て内科医線維筋痛症の治療法
線維筋痛症の治療は、薬物療法と非薬物療法を組み合わせた集学的アプローチが基本となります。「これを飲めば治る」という特効薬はなく、複数の方法を組み合わせながら、症状のコントロールと生活の質(QOL)の改善を目指していきます。
薬物療法
線維筋痛症に使用される代表的な薬剤は以下のとおりです。薬の使用にあたっては必ず担当医の処方・指示に従ってください。
- プレガバリン(商品名:リリカ):日本で線維筋痛症に対して唯一承認されている薬剤です。神経の興奮を抑えることで痛みを和らげます。眠気やめまいが出ることがあるため、少量から開始して徐々に増量していきます。
- デュロキセチン(商品名:サインバルタ):セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)に分類される薬です。中枢神経系での痛みの伝達を調整し、疼痛・倦怠感・気分の落ち込みに効果が期待できます。なお、日本では線維筋痛症への保険適用はなく、医師の判断で適応外使用される場合があります。
- アミトリプチリン:三環系抗うつ薬で、少量で睡眠の質の改善や疼痛軽減に用いられます。線維筋痛症への保険適用はなく適応外使用ですが、国際的なガイドラインでも治療選択肢として挙げられています。眠気や口渇などの副作用があるため、就寝前の少量投与から始めることが多いです。
なお、NSAIDs(消炎鎮痛薬)やオピオイド系鎮痛薬は線維筋痛症には原則として推奨されていません。これらは中枢感作そのものには作用せず、効果が乏しいうえに副作用や依存のリスクがあるためです。
非薬物療法(特に重要)
線維筋痛症の治療において、非薬物療法は薬物療法と同等かそれ以上に重要とされています。特に有酸素運動と認知行動療法(CBT)は最もエビデンスが確立された治療法です(EULARガイドライン 2017)。
- 有酸素運動:ウォーキング・水中歩行・自転車エルゴメーターなどの有酸素運動は、現在最もエビデンスが確立された治療法の一つです。運動によって脳内の鎮痛物質(エンドルフィンなど)が放出され、中枢感作の改善にもつながります。「痛いから動かない」という状態が続くと症状が悪化しやすいため、無理のない範囲から少しずつ体を動かすことが勧められます。
- 認知行動療法(CBT):痛みに対する思考パターンや行動を見直し、症状への対処法を身につける心理療法です。痛みの破局化思考(「もう治らない」「どんどん悪くなる」など)を修正し、日常生活の質を改善する効果が複数の研究で示されています。
- ストレス管理・睡眠改善:ストレスは症状を著しく悪化させる因子です。リラクゼーション法・マインドフルネス・睡眠衛生指導なども、症状の安定化に役立ちます。
患者さんへ伝えたいこと
線維筋痛症は、長い間「原因不明の痛み」として見過ごされたり、「気のせい」「詐病」と誤解されてきた歴史があります。しかし現在では、中枢神経系の痛み調節機能の異常という生物学的な基盤を持つ疾患であることが明らかになっています。痛みは本物であり、あなたが弱いわけでも、おおげさなわけでもありません。
線維筋痛症は完治が難しい疾患ではありますが、適切な診断と治療・セルフケアの組み合わせによって、多くの患者さんが症状を改善し、日常生活を取り戻しています。まずは信頼できる専門医(リウマチ内科・ペインクリニックなど)に相談し、あなたに合った治療プランを一緒に考えていくことが大切です。
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