MENU

抗リン脂質抗体症候群(APS)とは?血栓・流産との関係をリウマチ内科専攻医が解説

「血栓ができやすい」「流産を繰り返している」という方の中に、抗リン脂質抗体症候群(APS)が関係しているケースがあります。リウマチ膠原病内科専攻医として外来でもよくご質問をいただくテーマですので、今回はAPSについてわかりやすく解説します。

目次

抗リン脂質抗体症候群(APS)とは?

抗リン脂質抗体症候群(APS:Antiphospholipid Syndrome)とは、抗リン脂質抗体と呼ばれる自己抗体が体内に存在し、血栓症や産科合併症(習慣流産など)を引き起こす疾患です。

自己免疫疾患のひとつであり、免疫系が誤って自分自身の細胞膜に関係するタンパク質や脂質を攻撃することで、血液が固まりやすい状態(血栓形成傾向)になります。動脈・静脈どちらにも血栓が生じうることが特徴です。

抗リン脂質抗体とは?検査でわかること

APSの診断において中心となるのが「抗リン脂質抗体」の検出です。主に以下の3種類の抗体が検査対象となります。

① ループスアンチコアグラント(LA)

名前に「ループス(狼瘡)」とありますが、SLE(全身性エリテマトーデス)患者だけに見られるわけではありません。試験管内では血液を固まりにくくする(抗凝固)作用を示しますが、体内では逆に血栓を形成しやすくします。この矛盾した特性が名称の由来です。

② 抗カルジオリピン抗体(aCL)

細胞膜の構成成分であるカルジオリピンに対する抗体です。IgGとIgMの2種類が測定されます。APSの診断に広く用いられており、高い力価(抗体の濃度)が続く場合に診断の根拠となります。

③ 抗β2グリコプロテインI抗体(抗β2GPI抗体)

β2グリコプロテインIというタンパク質に対する抗体です。こちらもIgGとIgMが測定されます。3種類の中でもAPSに比較的特異性が高い抗体とされています。

これらの抗体は1回の検査だけでは不十分で、12週以上の間隔をあけて2回以上陽性を確認することが診断の要件となっています。一時的な陽性(感染症などでも偽陽性が出ることがあります)と区別するためです。

患者さん
抗リン脂質抗体が陽性と言われたのですが、すぐAPS確定ということになるんでしょうか?

子育て内科医
1回の陽性だけでは確定しません。12週以上あけて再検査し、2回続けて陽性であること、かつ血栓や流産などの臨床症状があること、この両方を満たして初めてAPSと診断されます。

APSの主な症状

血栓症

APSの最も代表的な症状が血栓症です。静脈・動脈どちらにも起こりえます。

  • 静脈血栓:深部静脈血栓症(足の静脈)、肺塞栓症など
  • 動脈血栓:脳梗塞、心筋梗塞、四肢の動脈閉塞など

若い年齢で脳梗塞や心筋梗塞を発症した場合、APSが原因として疑われることがあります。また、網状皮斑(リベド)と呼ばれる皮膚の網目状の変色が見られることもあります。

産科合併症

APSは妊娠に大きく影響します。主な産科合併症として以下があります。

  • 妊娠10週以降の原因不明の胎児死亡
  • 習慣流産(特に説明のつかない流産を繰り返す場合)
  • 重症妊娠高血圧症候群・子癇
  • 重篤な胎盤機能不全による早産

習慣流産の原因としてAPSが関わっているケースは少なくなく、産婦人科と連携した精査が重要です。

原発性APSと続発性APS:SLEとの深い関係

  • 原発性APS:他の基礎疾患を伴わないAPS
  • 続発性APS:他の自己免疫疾患に合併したAPS

続発性APSの基礎疾患として最も多いのがSLE(全身性エリテマトーデス)です。SLE患者さんの一定割合で抗リン脂質抗体が陽性になることが知られており、SLEとAPSを合併している場合は、両疾患の管理を同時に行う必要があります。

APSの診断基準(Sapporo基準/Sydney基準)

APSの診断には国際的な基準が用いられています。1998年に日本(札幌)で提唱されたSapporo基準が原型であり、2006年に改訂されたSydney基準が現在の標準的な基準とされています。

基準の骨子は「臨床基準(血栓症または産科合併症)」と「検査基準(抗リン脂質抗体の持続陽性)」の両方を満たすことです。抗体の力価や陽性回数などについての詳細は主治医にご確認ください。

APSの治療:抗凝固療法の考え方

APSの治療の基本は血栓を予防・治療するための抗凝固療法です。血液を固まりにくくする薬剤(抗凝固薬や抗血小板薬など)が使用されることがあります。具体的な薬剤の選択や用量については必ず主治医にご確認ください。

治療方針は「血栓を起こしたことがあるかどうか」「産科APSとして管理するかどうか」「基礎疾患の有無」などによって異なります。自己判断で薬を中断・増減することは非常に危険ですので、必ず専門医の指示に従ってください。

患者さん
抗凝固薬を飲み続けなければいけないと聞いて、少し不安です……。

子育て内科医
お気持ちはよくわかります。定期的な血液検査でのモニタリングが必要ですが、怖い気持ちがあれば主治医に遠慮なく相談してみてください。一緒に管理していきましょう。

妊娠とAPS:習慣流産との関係

APSは妊娠を望む方にとって特に重要な疾患です。産科APSと呼ばれる病態では、胎盤の血管に微小血栓が形成されることで胎盤機能不全が起こり、流産・死産・早産・胎児発育不全などにつながると考えられています。

APSと診断された場合でも、適切な管理のもとで妊娠・出産に至っている方も多くいらっしゃいます。妊娠を希望されている方はあらかじめ主治医に相談し、妊娠前から計画的に準備を進めることをおすすめします。産婦人科とリウマチ膠原病内科が密に連携して管理することが重要です。

まとめ

  • 抗リン脂質抗体(LA・aCL・抗β2GPI抗体)の持続陽性が診断の鍵
  • 血栓症と産科合併症(習慣流産など)が主な臨床像
  • SLEとの合併(続発性APS)も多い
  • 治療は抗凝固療法が中心。薬剤の詳細は主治医に確認を
  • 妊娠希望の方は早めに専門医・専攻医へ相談を

「抗リン脂質抗体が陽性と言われた」「流産を繰り返している」という方は、ぜひリウマチ膠原病内科や産婦人科の専門医・専攻医にご相談ください。

この記事が気に入ったら
いいねしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次